第589話 買い取りをしていた男
翌日から痩せっぽっちのジョンとエルマーの2人組を会社(うち)で連絡員(メッセンジャー)として働かせつつ、スライムの核がどんな商流に乗っているのか、剣牙の兵団の協力も仰ぎつつ調査をすることになった。
「まあ、どこの誰かはすぐにわかるけどな」
「そうなの?」
事業が多岐に渡り始めたせいか、最近は俺とサラで別々の仕事をすることも増えてきていたのだが、駆け出し冒険者の件では、サラがピッタリとくっついて来る。
この件については、どうしても自分で決着をつけたいようだ。
「冒険者ギルドの買い取りの帳票を見れば名前はすぐわかる。問題は、名前だけはわかっても住所なんかはすぐにわからん、ってことだな」
冒険者の登録の名前など自称でしかないし、定宿を登録している冒険者は少ない。
とはいえ、奇妙な稼ぎ方をしている冒険者がいれば、仲間内で評判になるものだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの窓口担当に買い取り帳票で調べてもらった結果、マルティンという名前はすぐに判明した。
個人情報の保護、という概念がないのがこの際はありがたい。
「それで、どんな外見のやつなんだ?」
「あんまり見た目は良くないです。不潔で、格好も汚いですし。典型的な冒険者崩れですね。スライム狩りって私たちは呼んでます。片足でどうやって、あれだけの数のスライムの核を狩っているのか不思議だったんですが・・・」
「片足?」
「ええ、なんでも依頼の最中に受けた怪我が悪化したとかで。片足を引きずっています。冒険者を引退したとばかり思ってたんですが、うまい狩り方でも見つけたんですかね?」
窓口担当は不思議がっていたが、残念ながら、そいつが見つけたのは上手い狩り方ではなく、駆け出しや子供を食い物にするやり方だったわけだ。
困窮した元冒険者が、駆け出し冒険者から小銭を掠め取る。
やり切れない構図だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
名前と外見の特徴が分かっていれば、この街で剣牙の兵団の探索から逃れられる奴はいない。
その日の夕方には、マルティンとかいう冒険者を発見し、剣牙の兵団の事務所で身柄を抑えた、という連絡がきた。
「それじゃあ、サラは・・・」
「あたしも行くから」
有無を言わせない頑なな声だった。
「嫌なものを見るかもしれないぞ」
「わかってる」
とはいえ、どうしたものか。
悩んでいると、工房の入口付近で連絡員として待機している2人組が目に入る。
「あの2人も顔を確認するのに連れていく。面倒をみてやってくれるか」
「まかせて!」
2人組の面倒を見させておけば、子供に見せたくない場面では一緒に避難してくれるだろう。
身勝手で小狡い計算かもしれないが、やはりサラにはそういう場面を見せたくない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
剣牙の事務所に連れてこられた男は、冒険者くずれ、という言葉にピッタリの見た目をしていた。
髪や髭は伸び放題、昔は鍛えていたであろう体は痩せ細り、暴力を生業としていた者に独特な座った目をしている。
昼間から酒を飲んでいたところを連れてこられたらしく、吐く息は酒臭い。
もっとも、事務所に連れてこられた段階で酔いはすっかり醒めているだろうが。
あまり抵抗しなかったのか、特に殴られたりした様子はなく、団員に囲まれて大人しく椅子に座わっている。
「お前が、マルティンか」
声をかけると、男は酒に濁った赤い目をこちらに向けた。
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