第524話 アイディアを出せ
いよいよ午後の討議が始まる。
4つの班に新人官吏達を配置し、アイディアを書き留めるための木板も配布する。
「それでは、午後の討議を始めます。午前中に共有された事業の内容を、どのように改善できるか。そのアイディアを競っていただきます。午前中の皆さんの議論は大変に有益なものであると聞いております。そこで、こちらでは追加で賞金を出すことにしました。具体的には、各班で行われた議論で、素晴らしいものがあれば各藩の新人官吏達が私のところに提出し、その中から適宜、発表していきます。発表されたものには賞金を出していきます。ときには、アイディアを考えた当人に説明をお願いすることもあります」
午後の議論で追加する内容を説明する。
その際のコツは、ただの変更ではなく、賞金の追加、というボーナスとしての印象が強くなるように伝えることと、アイディアを考えた名誉についても保証すること、その選定の基準は代官である自分が引き受ける、ということである。
ビジネスプランやブレインストーミングなどでは、アイディアを出すことも重要だが、どのような基準でアイディアを評価して絞り込んでいくか、アイディアを出した後の過程に重要性がある。
実際に行っている側は、喋っているだけで疲労困憊し、ある種の満足を得てしまうので、自己満足に陥らぬよう、評価と実行の仕組みが必要となるわけだ。
本来であれば、アイディア評価の仕組みまで含めて議論できると良いのだが、今日のところは、後半の仕組みは全部こちらで引き受けることにする。
(まあ、やってやれないことはないか)
詳細の技術的な部分がわかっていないことに一抹の不安はあるが、それを言ったら全員がわかっていないのだ。
少しでもわかっているだろう自分が責任を引き受ける以外にない。
「代官様、質問してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
専門家の手が上がったので、指差して許可をする。
ちょっとしたやり取りだが、午前中の討議を通して、議論の作法のようなものが専門家達に浸透してきているのを感じる。
平民出身者が中心で礼儀の教育こそ受けていないが、全員がそれなりに現場で優秀な業績を上げている者達なわけで、順応が早い。
優れた技術者というのは、知識の吸収に貪欲で素直な者が多いのかもしれない。
「賞金の追加というのはありがたいお話でありますが、他の班に真似されてしまうのではないでしょうか」
やはり、その質問が来たか。想定通りの質問であったので、予め検討した通りに返す。
「まず、良いアイディアを出した時点で評価をします。そのアイディアを元に新しく検討されたアイディアが良ければ、そちらも評価します。良いアイディアというのは、少なからず他のアイディアに影響されているものです。もし全く新しいアイディアであれば、そちらも評価します。良いアイディアを出すためであれば、どんな方法であっても評価します。これで伝わりますでしょうか?」
真似をしてもいい。何をしてもいい。とにかく良いアイディアを多く出せ、というメッセージに、参加者たちは目を白黒させていた。
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