第523話 間食
午後の手順を簡単に確認し、解散とする。
「とりあえず飯にするか」
今日の午後も討議は長くなることが予想される。
外に食事に行きたいところだが、運営の責任者としては教会から離れたくない。
参加者たちや新人官吏は外食に行くだろう。
「教会で1食ぐらい分けてもらえるかな」
街の2等街区にある教会なのだから、それほどマズイ飯は食っていないだろうし、対価を払えば分けてもらえるだろう、という予想は見事に外れる。
「すみませんが、教会では1日2食としているのです。昼食の用意はありません」
対応してくれた教会の厨房管理者に、にべもなくそう告げられた。
「まいったね・・・」
まさか自分一人のために食料庫を開いたり、厨房の火を起こすように頼むわけにもいかない。
こうなるなら、ゴルゴゴに頼んで会社の事務所から食事を持ってきてもらうのだった。
少しばかり後悔しつつ席に戻ってくると、サラが座って待っていた。
「なんだ、サラは食事に行かないのか?」
「もう行ってきたわよ。はい、お土産」
差し出された固いパンと串焼きの肉を有難く受け取る。
「助かる。それにしても、よくわかったな」
「だって、教会の人達がお昼が食べないのは常識だもの。なのに、ケンジったら教会の奥に行くから変だな、と思ったのよ」
「すっかり見透かされてたわけか。注意してくれてもいいのに」
自分の失敗に、思わず苦笑する。この世界の常識が抜けているせいか、ときどきこの種の失敗をやらかす。
「何か大事な用件なのかも、と少し思ったのよ。偉い人が来てるとか」
「ああ、そう見えても不思議はないか」
実際、教会を離れられないでいるのは、ニコロ司祭が急に来た時に対応できるのが自分しかいないから、という理由もある。
それにしても、固パンは、保存にはいいが、本当に固い。
乾パンの固まりを齧っているような気がしてくる。
「はい、飲み物」
サラに差し出された杯には、赤く透明な液体が入っている。
「ワインじゃないか。どうしたんだ、これ」
そのあたりの居酒屋にあっていいような質のワインではないことは、見ればわかる。
「さっき来た偉い教会の人から差し入れですって。奥に積んであったから貰ってきたの」
「よく見てるな」
パンだと思うから硬いのであって、麦芽味のビスケットだと思えば酒のつまみとして、それほど悪くはない。
串焼きの肉を食べて、口内の脂をワインで流し込むと、少し人心地がついた。
「こうして急いで食事をしていると、冒険者時代を思い出すな。野宿はゴメンだが、焚き火で食う鳥は美味かった」
「そうねえ。野鳥の羽を毟って食べるの、美味しかったわね」
射手(アーチャー)だったサラが依頼の道中に狩ってくれる鳥肉は、キツイ冒険者生活の中の、数少ない楽しみの一つだった。
「製粉工場が動けば、冒険者も普通に街中で鶏肉が食えるようになるさ」
領内で麦の削りカスを餌に鶏を飼うようになれば、雄鶏を潰して食べる機会も増えるだろう。
「卵もいいわね。野鳥の小さいのしか食べたことないけど、鶏の卵って大きいんでしょう?」
「ああ、サラの握り拳よりは少し小さいかな。それぐらいの卵が取れる。領地なら毎日食べられるかもな」
「なんか、代官様ってすごいのね」
食事のメニューに例えると実感がわくのか、サラは俄に目をキラキラさせて遠くを見る仕草をした。
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