第521話 創発
会社の工房からゴルゴゴを呼んで、多数の板切れを持ってきてもらう。
「なんだかんだで工房の方には領地開発の計画をした時の板切れは余っておるが。今回はどうするんじゃ?」
最近のゴルゴゴは印刷機の改良に血道を上げていて、使用する場面や応用についても熱心な様子を見せる。
今回の専門家達の技術的な話にも興味があるらしく、他の職人を差し置いて自ら届けにきたのだ。
「基本的には同じような使い方をする。ただ、印刷機があると便利だったかもしれないな。予め分類の印が印刷できると使いやすかったんだが」
「ほう。具体的には?」
「ちょっと待ってくれ。官吏達を集めるから、まとめて説明しよう」
昼前の休憩は、ほとんどの班が同時に取るようだったので、官吏たちには全員集まってもらう。
「いくつかの班から、午前中の進め方について課題が上げられている。説明は理解しているので、個別の問題解決のための議論に入りたいという議論の前倒しについてと、議論の途中であげられた優れたアイディアについても評価したい、という2つの点についてだ。解決策を考えたから、午後から導入したい。改善に方法について意見が欲しい」
午前中の課題について説明すると、新人官吏達から疑問の声があがる。
「ま、待って下さい。代官様。たしかに私の班でも同じような課題がありましたが、その解決策をもう考えたのですか?」
「ああ。それで、道具(ツール)も用意した。問題ないとは思うが、使い方について説明するから疑問については上げて欲しい」
「なんとまあ・・・」
進行形のイベントというのは、ある種の戦場だ、と思う。
様々な問題が発生し、解決できても出来なくてもイベントはそのまま進行する。
うまく解決できればイベントは成功するし、できなければ失敗する。
せっかくの機会なのだから、成功のための少しでも上手く行く方法を取りたいではないか。
それに、30人もいないイベントであれば、最悪の場合は自分が前に出て運営してしまえば何とかなる、との目論見もある。
これが参加者数が100人を超えると、逆にイベント中の方向修正など以ての外となる。
「では、説明するぞ。まずは、全員に議論の記録を取ってもらいたい。記録すべき内容は、改善のアイディアについてだ。それを板切れに記録する。専門家の領域と名前についてもだ。ここまではいいか?」
全員から質問は出ない。むしろ「同意します」「記録の必要性は感じておりました」という賛同の声や「自分で記録をとっておりました」という声などが上がった。
ゴルゴゴに合図して、大量の板切れを机の上に積み上げる。
「それを、この板切れに書いて欲しい。計画に使ったものだから、馴染みがあるはずだが」
領地の開発計画に際して、プロジェクト計画管理の一手法としてタスクを板切れに書いて積み上げ、並べ変えるという方法を取ったことは、記憶に新しいはずだ。
全員が自信に満ちた顔でうなずく。
「書いたものは、中央の机に置いて欲しい。他の班が見ることも自由とする」
今度は、わずかに動揺の声が上がる。
「代官様、今回は改善のアイディアを競うのではなかったのですか。他の班から見えてしまえば競争にならないではありませんか」
彼らの困惑は理解できる。知識やアイディアの競争とは、いかに新しいことを思いつくかも大事だが、どうやって秘密を保つのかも重要だ、との認識があるのだろう。
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