第482話 共有の仕掛け
議論を通じて、段々と説明・交流会の構想が固まってくる。
まず、依頼主である代官からの要請として、全ての専門家を集める。
次に、代官側から全体像を説明し、専門家側からも順に説明を行う。
最後に、説明会の後は、全員が参加する酒席を設ける。
説明会は教会で行い、会食は近所の酒屋を借り切ってもいい。
「それであれば、手配を私に任せてもらえませんか」
リュックが申し出る。確かに、このメンバーでいえば、リュックが一番、手配に手慣れている。
「酒はたっぷり用意しておけよ」
酔いつぶれて暴れたりしてもらっては困るが、専門家といっても平民だ。
代官が同席するにしても、堅苦しい席よりは酒があった方がいいだろう。
「任せてください。肉も酒もタップリと用意してみせます」
張り切ってリュックが答えるのに、少しばかり不安を覚える。
お財布に優しい額に収まるよう祈るしかない。
「あとは、もう少し何とかしたいな」
「もう少し、ですか?酒ですか?料理ですか?」
リュックの問いに主語を省略していたことに気がついて、苦笑した。
「いや、そうではなくて、交流のことだ。座って話を聞いて終わり、ではな。今のままで酒席を設けても、グループ毎に固まるのは目に見えている」
「なるほど、そうなるかもしれませんね」
交流させるために時間を使い、予算を出すのだから、お互いに交流させるための仕掛けをしたい。
席順を変えたり固定したとしても、話題がなくて困るだろう。
「いっそ専門家の集団を解体するか・・・」
集団になっているから、個人の顔が見えなくなる。
何かの口実を作り、個人になるようバラバラにしてしまえばいい。
「解体・・・とは穏やかではありませんね」
何を想像したのか、クラウディオが注意をしてくる。
「ものの例えだ。こういうのはどうだ。依頼主と専門家の説明を一通り行えば、全体像は一応、全員が理解できるな」
「ええ。そうですね」
「その後に、小さな集団(グループ)に分かれて、計画の課題や改善の提案を検討するんだ。集団には、各分野の専門家が1名ずつ入るようにする。提案は、その集団単位で行う」
いわゆるワーキンググループ方式だ。集団活動(グループワーク)と言った方が通りがいいかもしれない。
わかりやすい事例でいえば、ロボコンの国際大会でのチーム編成が国別でなく混合で行われる様子を想像するといい。
「聞いたことのないやり方ですが・・・説明と検討を同日に行うのですね」
「そうだ。検討できることは、その日にやってしまった方が効率がいい。それに小集団の方が議論や検討は行いやすいものだ。最も良い提案を出した集団には賞金を出してもいい」
説明会で全員に情報共有をする。小集団の議論しやすい単位に分ける。議論のテーマを実務に関連させる。小集団同士を競争させる。競争の結果に賞金を出す。
専門家同士の知見を共有させるための工夫を指折り数えると、全員が口を開け、呆れた表情になっていた。
「靴の包装の時も思ったけど、ケンジのやり方って執念深いというか徹底してるのね・・・」
というサラの発言は「そこまでやるのか」という、その場の全員が共有した想いだったのかもしれない。
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