第457話 お披露目の箱

男爵の発見によりもたらされる未来像。

あれをどうやって最速で実現するか。

己の考えに集中するあまり、男爵の言葉を聞き逃すところだった。


「皆様、本日は特別にお披露目させていただくモノがございます」


と、男爵が意気揚々と宣言する。


男爵がお披露目するモノ。それは、アレしかない。


ジルボアの合図で、台車に載せられた大きな、非常に大きな箱が数人がかりでガラガラと運搬されてくる。

分厚い木の厚板を頑丈な鉄板で各所を補強した、高さ約1M、幅約2M、長さ約3M強の巨大な棺のような代物だ。

その巨大な棺の前面は幾つもの大きな錠前と太い鎖で何重にも固められている。


箱を前にして男爵が滔々と説明をする。

なかなか盛り上げ上手だ。


「さて、こちらのモノですが。ここまで持ち込むのには大変苦労いたしました。御存知の通り、アレを城壁内に運び込むことは街の法律に違反となります。我々、高貴な者達であってもそれは同じです。ですが、私達は伯爵に特別の許可を得た上で持ち込んでおりますから、違法ではございません。その点は、ご安心いただきたいと思います」


男爵が具体的にどうやって許可を取り付けたのかはわからない。

ひょっとすると、大仰に演出してはいるが棺の中身は死体なのかもしれない。

その証拠に、箱からは獣臭と共に、鼻をつくような薬品らしき匂いが微かに漂ってきている。

この世界に来て初めて嗅ぐ、化学的な匂いだ。


「それでは、お披露目するとしましょう!調査行の最後の標本(サンプル)、人喰い巨人の個体です!」


男爵の合図で、棺の運搬に当たっていた団員達が、ガチャリ、ガチャリと金属音をさせ、巨大な錠前と鎖を慎重に外していく。

1名が解除の作業に従事する中で、残りの団員達は武器を構えてその様子を見守っている。


妙だな。死体をお披露目するにしては過剰な警備だ。

団員達の武装は調査行の困難さの演出のためだとばかり思っていたが・・・。

それとも、これも演出の一環なのだろうか。


俺の困惑を他所に作業は順調に進み、巨大な棺の蓋が慎重にズラされていく。


「おお!生きている!この怪物は生きているぞ!」


箱の隙間から覗いた怪物の姿を見た観衆の1人が叫ぶと、周囲の観衆にも動揺が広がる。

箱を取り巻くように近づいてた人垣が、それを避けるように一際大きく広がる。

ちょうど前が開いたので俺も中身が見えるようになった。


そこかには、たしかに怪物の顔があった。

確かに、死体にしては顔色が良すぎる。

まさか、本当に生きたままの怪物を城壁内に運び込んだのか。


「いやいやいや、皆様、ご安心ください。それは決して、人を傷つけるようなことはございません。いや、できないようになっておるのです」


男爵が両腕を振って安全性をアピールする。

その呼びかけに足を止めた観衆達は、説明を求めて一斉に男爵の顔を見る。


「それは、死んではいませんが、生きてもいません。そういった状態になっておるのです」


男爵の解説に、観衆達はつづきの言葉を待って言葉を飲み込んだ。

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