第443話 凱旋
ゆっくりと大聖堂を出て1等街区の門まで来ると、何やら門衛のあたりが騒動が聞こえてきた。
街中だというのに明明とたかれる篝火。ガシャガシャと多くの金属の武器がこすれ合う音。
そして押し殺した声でありつつも、激しく問答をする声。
現場に近づくと、どうやら門衛と剣牙の兵団が武装して睨み合っているようだ。
門をくぐった時の門衛は2人だけだったはずだが、他所の門からも応援が来たらしく8人程に増えている。
それでも剣牙の兵団の人数が多く装備も良い。実戦経験では天地の差がある。
彼らが本気になれば、衛兵など鎧袖一触だろう。
それが理解できているのか、心なしか門衛達の腰もひけているように見える。
衛兵と兵団の一触即発の状態の緊張の中、門の内側を睨んでいた団員の1人が声をあげた。
「あ、副長!小団長もいますぜ!」
「「おおっ!」」
突然あがった怒声ともつかぬ歓声に、少しばかり驚く。
「副長!小団長!ご無事で!もう少し遅かったら、こいつらを蹴散らしてお迎えに行くところでしたぜ!」
と門衛を前にしているのも構わずにキリクが大声で叫んでみせた。
そういえば、日暮れまでに戻ってこなければ助けに来る、とか言っていたな。
兵団の連中の様子を見る限り、本気だったのだろう。
陽の傾き具合からすると、あと少し遅ければ衝突していたところだ。
「ケンジ!大丈夫!?」
重武装の戦士達の中に、サラも迎えに来ていた。
こうしてみると、周囲の連中はまるでサラの親衛隊のようだ。
「心配かけたな!今回は我々の勝利だ!」
剣牙の兵団の連中に右腕をあげて応えてみえる。
すると、連中は剣の平を盾にガンガンと叩きつけて喜びを表現し始めた。
「「勝利は我らと共に!勝利は我らと共に!」」
それだけでなく、全員で足を踏み鳴らし、節をつけて重く低い声で歌い出した。
以前、吟遊詩人に決めさせた軍歌だろうか。
戦士団としての一体感を醸成させるために、兵団の歌を作った方がいいとは言ったが、1等街区と2等街区を仕切る門の前で「敵の首を落とす」だの「血の道を進む我らに敵はなし」といった物騒な歌詞の歌を披露するのは威嚇にしては、迫力がありすぎるだろう。
見ろ、相手の衛兵達がすっかり怯えて、槍先が震えているじゃないか。
歌い終えて思い切りテンションの上がった彼らは、その場で突撃でもしそうな雰囲気を醸し出していたが、副長のスイベリーが
「ようし!野郎ども!今夜は俺のおごりで祝杯だ!」
と声をかけると、「「オオッ!!」」と歓声が爆発した。
結局、突撃はなしということでクルリと向きを変え、隊列をくんだまま2等街区の事務所にへと向かうことになった。
俺は、その中で前後左右を武装した連中に囲まれつつ、サラにはしっかりと左腕をとられたまま歩く。
ようやく終わってくれたか。
左腕から伝わってくる温かさに、今回の騒動が無事に終えられたことの実感が湧いた。
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