第417話 指揮官のスイベリー
全員に指示を出したとは言え、基本的に俺は会社の事務所で待つことになる。
電話や通信機があるわけでないので、指揮をするためには必ず全員がわかる場所にいる必要があるからだ。
「それで?剣牙の兵団の指揮はいいのか?」
なぜかスイベリーまで会社に居座っている。
以前から剣牙の兵団の護衛としてキリクもいたので、殊更に邪魔というわけではないのだが、違った意味で気になる。
体躯はキリクと同じようでも何となく迫力というか、存在感が大きいのはわかる。
「今の指揮官はケンジなのだろう?ならばここにいるのが合理的だ」
と事も無げに言う。
まあ、確かに新人官吏達に護衛をつけた上で、革通りの出入口にも門番として団員を置いているから、動員は結構な人数になっている。
それだけの人数を指揮するのであれば、事態の中心である会社(うち)に仮の指揮本部を置くのが合理的なのだと言う。
「ジルボアが安心して外征できるはずだな」
以前のスイベリーは、ジルボアの傍で剣を振る腕利き、以上の存在ではなかったと思う。
それが剣牙の兵団が拡大し、大商人の娘と結婚し、留守部隊の指揮を任されることで指揮官としての自覚と力量を備えつつある。
「あとは、ケンジが団に入ってくれれば、もう一段、兵団をでかくできるんだがな」
「今でも50人は超えたと聞いてるぞ。どこと戦争をする気だ」
「正確には54人だな。なに、お前の商売の才と俺達ぐらいの腕利きが100人もいれば、貴族になって土地だって取れるさ」
「まあ・・・できなくはないだろうが」
剣牙の兵団の武力は、すでにそこらの貴族を上回っている。もし貴族になる条件が抱えている武力で決まるのならば、剣牙の兵団はとっくに貴族になっているだろう。
だが、実際には冒険者としては破格の扱いを受けていても未だに貴族にはなれていない。
一つ目の問題は家格と血筋だ。この停滞した、ある意味で安定した社会で貴族になるためには貴族家との婚姻などを通して血を形式的に整える必要がある。
もう一つ、スイベリーが言っているのは領地の運営だ。
冒険者が貴族になったとしても、官僚組織が地面から生えてくるわけではない。
領地の経営ができなければ婚姻した貴族家に乗っ取られることになる。
だが、官僚が勤まる程の教育を受けた人間は冒険者の貴族に仕えたりしない。
だから、冒険者のような社会的に低い地位にいて領地経営ができるだけの学のある人間は非常に珍しいし、貴族位を目指す冒険者にとっては、喉から手が出る程欲しい人材、ということになる。
「しかし、今の俺は言ってみれば教会派だぞ?おまけに代官にもなっている」
「それだってあと数年の話だろうが?お偉いさん達は、お前を利用することはあっても盟友にはならんだろう。少しでも失敗すれば、お払い箱さ。そうだろう?だが俺達は違う。お前が冒険者の心を持っている限り、お前は身内だ。この街の冒険者で、教会で治療できるようにしてもらい、共同の墓地を作ってくれた恩を忘れる奴はいない」
「スイベリー、お前さん、口がうまくなったな」
誘ってくれるのは嬉しいが、その容貌に似合わない長口上に、つい冷やかしたくなる。
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