第415話 修羅場の数なら

ロドルフは置いておいて、俺とクラウディオで詳細を詰める。

いつの間にかサラも来ていて、ロドルフと一緒にヒソヒソと何かを話している。


「しかし、もう少し証拠が必要だな。それに信頼できる証人も必要だ」


「そうでしょうか?今回の調査分でも代官の不正蓄財は明らかではないでしょうか」


そう言いながら、ロドルフは何枚もの羊皮紙を出してきた。

かなりの量だ。


「村長の証言は取っているのか?」


「ええ。記録してあります」


「では、教会の司祭の証言は?」


「もちろん、記録してあります」


「村の納税記録はあるか?」


「原本はありませんが、記録の写しはあります」


なるほど、クラウディオが自信を持って言うわけだ。

だが、ことを起こすならば最悪のケースを想定して準備する必要がある。


「クラウディオ、俺が汚職をした代官なら村人は買収するか、怪物に襲われたことにして始末する。そうすれば証言した内容の真偽は問われないし、今後、証言しようという人間はいなくなる」


「そんな、まさか・・・」


「村長や教会の司祭は賄賂と脅迫で黙らせておいて、自分は金を持ってニコロ司祭の敵対的派閥に駆け込むだろう。納税記録も破棄するな」


「し、しかし記録の写しがあります!」


「それに村長や司祭の署名はあるか?」


「・・・ありません」


クラウディオは教会育ちの若手のせいか、修羅場の経験が足りないし、追い詰められた身分の高い人間が平民をいかに簡単に害するか、平民がいかに暴力や賄賂に弱いか、想像力が不足している。


俺は商売を始めてから、その手の経験だけは豊富に積んでいたので、相手の代官が何を考え、何をしてくるのか。

それが手に取るように理解できる。


そこへ、サラが口を挟んでくる。


「でも、ニコロ司祭様がケチだからケンジに黙っていた、って可能性はないの?」


「なんと無礼なっ!」


「だって、ケンジは代官なんてやりたくなくて、報酬だって言うから引き受けてるのに、ちっともいいことないじゃない!」


俺は一連の経験を積んで貴族の思考様式を学んだが、サラが学んだのは上流階級に対する不信感であったらしい。

俺を心配してくれているのはわかるのだが、人前でそれを出すと生命に関わるので宥めることにする。


「サラ、庇ってくれるのはありがたいが、それで村人の暮らしがマシになるならいいじゃないか。それに正直なところ、ニコロ司祭様の企みだったら、お手上げだな。代官就任を辞退するぐらいしか方法がない。それはニコロ司祭様も望むところじゃないだろうさ」


一応、これまでの幾つも教会の利益になる提案と行動をしてきた実績があるはずだ。俺が教会の外側にいる限りニコロ司祭の出世競争の相手になるわけではないので、裏切る動機がない。


「そうです。ニコロ司祭様は、ケンジ様を大変高く評価しておられます」


とクラウディオがとりなす。


「兵団(うち)の団長もそうです。困ったら剣牙の兵団に来てください。ケンジ様なら、すぐに副団長ですよ」


とロドルフは別の方向から擁護してくれる。


「なら、剣牙の兵団に依頼したいことがある。スイベリー副団長に会えるよう、手配してくれるか?」


「あれ、団長じゃなくていいんですか?」


「ああ、当てにしているのはスイベリーの縁故(コネ)だからな」


俺の要請に、ロドルフは怪訝な表情を隠さなかった。

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