第391話 平凡な人間の仕事

「聞いてくる・・・そうですね。この手法があまりに革新的だったので、何でも自分達でできるつもりになっていたようです」


と、クラウディオが同意する。


「そうだな。新しい方法を知った時は、何でもそれで解決できるような気がしてくるものだ。だが、この方法も所詮はただの道具だ。その時、その時で、仕事に適した道具を使うようにして、道具に使われるようなことにならないように気をつけないとな」


「道具に使われる・・・。そうですね。その通りです」


クラウディオに偉そうに注意はしたが、それを実際に守れるかどうかというと、難しいところがある。

なぜなら、幅広い手法で適切な手法を選択することと、専門性を持つことは相反することが多いからだ。

普通のコンサルタントには自分の得意な手法というものがあって、その手法で解決できるよう問題の方を寄せて行ってしまうことも多い。

それでも問題解決ができればいい、という立場もあり得るが、個人的には解決策とは労力が最小であるべきだと考える。こだわりは必要だが、道具にすぎないという突き放した見方も持たなければならない。


「まずは聞いてこれそうな仕事に印をつけてみるんだな。それだけなら、比較的短時間で済むはずだが」


「なるほど。やってみます」


指示に対し、新人官吏達は板切れに印をつけ始めた。

後で手分けして聞きに行くにしろ、作業量を平均化するためにも数量を把握する必要がある。


特に考える必要のない作業なので、あっという間に印はつけ終わった。


「どうだ?何か気がついたことはあるか?」


質問を投げかけると、シオンが自信なさげに答えた。


「あのう、僕たちは新しい仕事をしているはずだと思っていたんですけど、思ったよりも印がつく仕事が多いような」


シオンの言うように、床一面に並べられた板切れの半分以上には、印がついていた。

つまり、誰かしら聞くことのできる相手がいる仕事ということだ。


「私も思いました。革新的なことをしているはずなのですが、多くの仕事には経験者がいるというのが意外です」


パペリーノもシオンに同意する。


「そうだな。だが、当然とも言える。本当に革新的な仕事というのは、既存の仕事の延長上にあるものだ。基盤なくして、改良も前進もない。それがわかってもらえれば、それでいい」


ひょっとすると、世の中には本当の天才というものがいて、俺の言っていることは間違っているのかもしれない。

これまでの積み重ねなど無視して、偉大なことを成す人間がいるのかもしれない。

だが、俺は平凡な人間に過ぎないし、今教えている手法も、平凡な人間の集まりが、どうやれば大きな仕事をすることができるのか、という方法論である。


多少の言い過ぎや誇張は、勘弁してもらいたいところだ。

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