第364話 トップダウンかボトムアップか
それからも議論は続いた。
クラウディオは統治の論理。サラは冒険者の論理。
トップダウンとボトムアップ。
どちらが優れていて、どちらが誤っているという話ではない。
それだけに議論に優劣はつかず、お互いは主張を譲ることはなかった。
大体の意見が出尽くして、主張もループし始めたので声をかける。
「そろそろいいかな?」
俺がいたことに改めて気がついたように、全員の視線が集まる。
それだけ集中して議論していたということだろう。
「さて。お互いの主張は、大体出尽くしたと思う。どうかな?」
全員が頷いたので、話を続ける。
「これから、どうやって領地を統治するか。その方法論について、皆が真剣に議論してくれたことにお礼を言いたい。そして、今回の議論を議論のための議論に終わらせることなく、実務の設計へとつなげていくことは、自分なりの責務であり、お礼でもあると思っている。
これから、代官領の統治方式について、方針を述べたい。
方針を定めるあたっては、皆の調査結果は大いに参考になった。
もちろん、今から述べる方針について異なる意見があればいつでも聞く用意がある」
まずは調査活動に対して評価し、それが役に立ったと言うことを忘れないようにする。
役に立ったという一言で、部下の聞く姿勢と今後のモチベーションに繋がる。
上役が喋るときは、必ずリスペクトとフィードバックが必要、ということでもある。
極論すれば、その2点がないのであれば上役として話す意味が無い。
彼らが聞く姿勢を整えたのを見て、続ける。
「まず、前提として領地は街から離れている。
そして私は代官として領地の管理と街で靴事業の管理の双方を平行して行う予定である。
そのために1人で2つのことを見られる効率的な統治方式を模索しているわけだ。
所見になるが、現在のところニコロ司祭から拝領する領地は統治があまりうまく行っていないように見える。
根拠としては、近年、特段の不作や失策がないとされているにも関わらず冒険者となる若者を複数だしていること、怪物を追い返す仕事が村人に実質的な賦役としてのしかかっていると想像されること、そして問題が報告されていないことから想定されるものだ。
問題の起こらない領地は存在しない。問題がないと報告されているということは、問題を握りつぶしているか、問題を問題と認識していないということである。
これは代官個人の資質の問題かもしれないが、管理方式の問題でもある。
今起きている問題を、平凡な資質の代官でも認識でいる方式を考案する必要を、私は感じている。
今、起きている問題はどこにあるか。
それは農民が晒されている事実にあり、冒険者が解決した問題にあるだろう。
書類に問題がないことは、問題がないことを保証しないことを、改めて認識しなければならない」
ここまでは、全員が真剣に聞いている。
ただ、ここまでの話だけでは精神論の世界だ。
ここから、さらに業務のレベルに指示を落として話をしなければならない。
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