第340話 呼び出し状
街の大聖堂の中に設けられた、身分の高い者のみが入ることを許された応接室。
壁には宗教画が飾られ、卓は分厚い木の削り出し、卓上には鮮やかな染料に彩られ細かく編み込まれた布がかけられている。この机と布一枚で2等街区なら家が買えるだろう。
その上には金銀の輝きを持つ燭台と食器が綺羅びやかに飾られ、蝋燭の灯りで輝きも煌めきを増す。
そんな、明らかに場違いな席で、俺はニコロ司祭と一対一で向き合う羽目になっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すごいね、この招待状」
最近はサラにも読み書きを教えつつ、簡単な文書の処理や注文の処理を任せているため、文書や注文書の羊皮紙の質や蝋に押印された紋章を見ることで、手紙の格(ランク)、とでも言うべきものを見る目が養われているようだ。
その彼女の目から見ても、今回のニコロ司祭からの呼出状は、格(ランク)が一際違うようだ。
「それに、すっごい、金ピカね」
羊皮紙の質もあるが、文面を囲む枠に金箔だろうか、派手な飾りが描かれている。
おそらくは貴族間で正式な文書などでやり取りされる類の書類で、この飾りも一筆ずつ手書きがされたもののはずだ。
そんなもので呼び出しとは、一体なにか。
「司祭様も、本気を出してきたな」
これまでの俺とニコロ司祭の関係は、よく言ってニコロ司祭の懐刀、悪く言えば癒着する商人である。
身分が冒険者ということもあって、枢機卿の懐刀のニコロ司祭の、そのまた懐刀として裏方に回って暗躍してきたわけだ。
そうすることで俺は冒険者を支援するための仕組みや事業を実現し、ニコロ司祭は勢力を増し、枢機卿の派閥は強くなった。全員が幸せになっている。誰も損をしていない。
だが、俺達が幸せになると困る勢力がいる。
枢機卿に対抗する派閥であり、ニコロ司祭の出世競争の相手であり、俺の商売の競争相手である。
それに、影に回るには俺はこの街で名前を売りすぎたのかもしれない。
個人的には剣牙の兵団の裏に隠れていたつもりではあったが、そうは見てもらえなくなってきているようだ。
「それで、何て書いてあるの?」
とサラが聞く。
貴族様や聖職者の偉いさんからの手紙というのは、言い回しや表現がややこしくて、一見しただけでは意味がとりにくい。
時候の挨拶らしきものから始まり、神への感謝と寓話らしきものへと続き、その寓話が意味するところから俺の呼び出し理由へと繋がっている、らしい。
「これは、解読が必要だな。要するに、来い、と言っていることはわかるんだが。何のために、という理由がわからん。この手紙の質や紋章にも意味があるのかもしれんが・・・」
ちょっと上品な商人とのやり取りぐらいなら俺でも見よう見まねで何とかなるが、本当の上流階級との付き合いとなると、俺程度の教養では何ともならない。
そうして弱っていると、護衛のキリクが
「うちの実家が使っていた代筆屋で良ければ紹介しますよ。富裕な商人相手の、貴族向けの代筆屋がいます」
とのことなので、金を払って呼んで来てもらうことにした。
「剣牙の兵団でも、貴族から手紙とか来ていた筈だよな。やっぱり、その代筆屋に頼んでたのか?」
と、キリクに聞いてみると
「いえ、兵団(うち)は団長が、その手のやり取りができましたから」
と返ってきた。
ジルボア、お前は一体何者なんだよ・・・。
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