第十八章 依頼方法を改善して支援します

第279話 街中の教会

冒険者の教会での成功事例を、街中で広めるだけならば簡単だろう。


教会の連絡網を使用して「教会の信徒に側溝のスライム退治で困ったことがあれば、冒険者ギルドへの依頼を推奨すること。目安となる価格は銅貨2枚」などと知らせればいいだけだ。

街の設備のメンテナンスの一貫であるから自治会費のような形で街区の信徒たちから少額の寄付金を徴収してプールし、教会から定期的に依頼してもいい。スライム核の相場が上昇している今なら、格安で依頼を受ける駆け出し冒険者達に不自由しないだろう。


会社(うち)はスライム核が幾つあっても足りない状態だから、それは嬉しい。

教会としても、信徒から寄付を募る集金ルートができることは嬉しいに違いない。今回の寄付金が少なかったとしても、寄付金という習慣が根付くことは教会の集金力があがることにつながるからだ。

住民としても少額で怪我の危険なく街を綺麗にすることができるし、駆け出し冒険者達は仕事ができて金がもらえる。

関わった人全員が幸せになれる仕組みだ。


事業というのは、こうでなければいけない。


問題となるのは、農村の教会に冒険者への紹介を促すことだ。

街中であれば教会の連絡網という定期的な連絡手段があるし、噂の伝達スピードも早い。その気になれば歩いて情報を確かめることができる。

ある教会がうまくやっているという情報があれば、教会間の競争意識もあるので、すぐに真似するなりして方法が広まるに違いない。


それに正直なところ、俺は農村での教会と冒険者の関係に詳しくない。

俺の冒険者時代は、この街を拠点に動くことが多かったし、農村を守る依頼は時間がかかるわりに報酬が良くなかったので、ほとんど請けたことがない。


セリオ司祭には、その旨を正直に話し、農村の暮らしに詳しい聖職者を紹介してくれないか、と聞いたところ、去年まで農村で司祭を務めていて、今はこの街の別の教会に務めている司祭を紹介してもらえることになった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


数日後、ようやく仕事に一区切りをつけて、紹介された教会まで行くことができた。

この街区は伯爵の城を挟んだちょうど反対側にあり、冒険者ギルドとも革通りとも遠いので、ほとんど来たことがなかった。

町並みの様子は同じ3当該区ということで似ているが、商店の種類や住宅の様子も少し異なっている。

俺と同じようにサラもこの辺りに来たことがないせいか、周囲を物珍しそうに眺めている。


街中の商店などが並ぶ一角に、その教会はあった。

入口の様子だけを見ると、隣の商店の続きと勘違いしそうな、元々は商店であったものを改装したような教会だった。冒険者の教会のように墓地が併設されているわけでもなく、祈りや相談の集会所としての機能に限定された教会なのかもしれない。

会社で例えるなら、冒険者の教会が支店とするならば、この教会は出張所のような感じだ。


その少し小さな入口の天井は低く、心なしか首をすくめてくぐり抜けると、意外なほどに天井が高く作られた空間の集会所が広がっていた。

そして正面には信徒らしき街の人の相談にのっている聖職者がいた。


紹介状を持っているとは言え、押しかけてきた身なので相談が終わるまで集会所の隅で待つことにする。

それにしても、それほど広い集会所ではないはずだが、高く取られた天井が取られ、外の明かりが入ってくる構造になっているせいか、厳粛な空間を演出することに成功している。なかなかセンスのある設計だ。

海外の観光地で聖堂やモスクなどにも行ったことはあるが、石造りの建物で天井が高くなっていると賛美歌や祈りがよく響くのだ。そのあたりの音響効果も狙って建造されているのだろう。


俺がそうやって天井を眺めて時間を潰していると、サラが脇腹を肘でつついてきた。


「ねえ、あの人が紹介された聖職者の人?」


と小声で聞いてくる。


「そうらしいな」


サラは俺の返事に満足せずに、自分の印象を小声で言った。


「なんか、司祭様っぽくないね」


俺の位置からだと街の人に遮られてよく見えないが、確かにずんぐりとした体形(シルエット)が伺える。

痩せ型の多い、他の聖職者とは違って見えるかもしれない。

それに、やや髪の毛が薄いというか、年齢が上に見える。

もちろん、そんなことは言わなかったが。

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