第275話 教会の司祭

「私で答えられるような話であればいいのですが」


教会の司祭は、セリオと名乗り、急な来客である俺たちを奥の部屋に通して、歓待してくれた。

椅子をすすめ、手ずから茶を淹れつつ、愛想よく日々の話題を提供してくれる。

気位の高い知識階級でもある聖職者には珍しいタイプだ。

この社交性の高さが、冒険者のような乱暴者達の相手をしなければならない、3等街区の教会に配属された理由なのかもしれない。


「今では、冒険者の教会などと呼ぶ人も多くてですね」


と笑顔を浮かべながら、セリオ司祭が最近の事情について説明してくれる。


「冒険者の教会。いい名前ですね」


と、俺は茶の香気を顔にあてつつ答える。


冒険者の教会、という名前には、冒険者という、はずれ者達が寄り集まった集団と、知的階級である教会の組み合わせという、違和感と、2つの集団が協力することによる可能性が感じられる。


ひとしきり歓談してから、今回の訪問の目的について俺の方から切り出した。


「実は、この教会で築かれている教会と冒険者の絆を、より強くできる方法を検討しております。そのために必要な情報の収集に協力いただけないのかと思っているのです」


教会の人間に協力を依頼する時は、主語を教会にする。

細かい話だが、重要な技術だ。

相手のことを尊重している、という意志と、賢い相手には、自分は相手のことを考えて表現を変えられる程度には頭を使っています、という証明にもなる。

そういうサインを送ったわけだ。

ニコロ司祭の傘下の司祭であるから、当然、後者の意味で使ったのだが、この司祭の社交性の高さを考えると、前者の意味にとられたかもしれない。


「なるほど。それは、大変に良いことだと思います。私に力になれることであれば、協力させていただきますよ」


と、存外、あっさりと頷いたので、難しい交渉を覚悟していた、こちらの方が拍子抜けする思いだった。


「あの、こちらからお願いしておいてなんなのですが、そんなに簡単に頷いてしまって良かったのですか?」


と心配になって尋ねたところ、


「私もね、教会は冒険者と協力すべきだと思うのです」


と笑顔で賛同してくれた。


「意外ですね」


と思わず口にしてしまったのだが、それが俺の本音だった。


冒険者と教会の協力関係は、どちらかと言えば俺とニコロ司祭の取引の成果による報奨的な位置づけであって、そこに配属された聖職者からすると、本流から外されたような疎外感があって然るべきものだと思っていたからだ。


そのあたりの気分を察したのだろうか、わずかに苦笑しつつ司祭が説明してくれた。


「私がこの仕事を引き受けたのは、人付き合いの上手さを買われたのと、あとは一足早く司祭にしてもらえる、という話があったからですね。そのあたりの打算があったことは否定できません」


そう断ってから、セリオ司祭は語り始めた。

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