第209話 攻めと守り

前提が共有されたところで、説明を続ける。


「さて。もう少しだけ考えて欲しいんだ。税の使い道が説明されて、しかもそれが信頼できるものだとする」


その前提に、全員が頷いたので、先を説明する。

ここからが本番だ。


「その使い道が、例えば農村の支援だとしたら?」


サラが元気よく手をあげて答える。


「あたしは払う!」


一方で、ゴルゴゴとアンヌは、やや消極的だ。


「まあ、払わなくはないがのう、やはり剣や鎧を注文してもらいたいのう」


「そうよね、お貴族様には綺麗な衣装を注文してもらわないと、お針子さん達の生活が困るもの」


ここまで理解できてもらえば、あと少しだ。続けて問いを投げかける。


「もし、その税を払うか払わないか自分で決められたら?」


やはり、税を払う払わないという前提に苦しむのか、3人はしばらく腕組みをしていたが、やはりサラが答えた。


「あんまり重くなかったら、あたしは払うかな」


意外なことにキリクも賛成なようだ。


「そうだな。農村出身の団員も多いから、払う奴も多いんじゃないか」


街で暮らすことが多いゴルゴゴとアンヌは反対のようだ。


「わしは払わんな」


「私も」


全員の意見を聞いて頷く。


「さて、そこで開拓者の靴と教会の印の話に戻るわけだが。この靴に教会の印がつけられる。これは教会が課す一種の税なんだ。ただし、目的は農村の支援だし、払うのも、払わないのも自由だ。靴は買っても買わなくてもいいからな」


ここまで説明し議論した内容から全員が理解できたようで頷いている。


「ただ、皆の意見のように、この税は綺麗な使い方をされて、多くの人が気持ちよく払える仕組みや雰囲気を作らないといけない。仕組みはミケリーノ助祭が担当して、そういう特別な部門を作る。払われた税を管理して、使い道を明らかにして、間違った使い方をされていない、と説明する部門だ。


それと、この印がついた靴を履いている人が尊敬されるとか、格好いいとかを広報し、宣伝する必要がある。この印は特別に選ばれた品物にしかつけられないとかの、選ばれた特別な印象を与えることも必要だ。この方法を、これから皆と考えたい」


ブランド管理には、攻めと守りが必要だ。教会の管理部門が担当するのは守りだ。ブランド価値を毀損する製品や取り組みが入らないよう監視し、コントロールしていく。


一方で、開拓者の靴を製造する俺達が考えるのは攻めだ。ブランド価値を訴求し、教会の印が選ばれた製品にしかつけられないこと、それを身に着けることが社会的地位(ステータス)に繋がるような仕掛けをしていかないといけない。


実際には、攻めと守りは表裏一体のものだから、ミケリーノ助祭を巻き込んで一体のチームとして議論していくことになる。


そうやって、この世界で初めてのブランド管理のノウハウを組織に蓄積していくのだ。

この経験は、この世界における会社(うち)の競争力を更に高める貴重な経験となるだろう。


ただ、横から議論を眺めていたミケリーノ助祭は呆れるべきか、驚くべきか迷うような微妙な表情で目をしきりに瞬かせていた。

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