第208話 税のつかいみち

そうして口を開けていた面々の中で、最初に立ち直って疑問を投げかけてきたのはサラだった。


「ケンジ、ちょっとよくわからなかったんだけど・・・」


それに続いて、ゴルゴゴ、アンヌ、キリクの残りの面々も口々に不満を述べてきた。


「そうじゃな。まったくわからん」


「そうね、あたしもちょっと理解できなかったわ」


「俺もよくわからなかったな。もうちっとわかるように話してくれねえかな」


先の説明は法学の基礎を持つミケリーノ助祭に理解できるよう説明した話なので、理解できなくても当然ではある。彼らには、別の事例で説明した方がいいだろう。


俺は頷くと、少し別の角度から説明することにした。


「みんな、税は納めてるよな」


そう聞くと、全員が嫌そうな顔をした。

まあ、税金と聞いて好きな人間はいない。いや、貴族や聖職者のような社会の上層の人間はそうでもないか。

ミケリーノ助祭だけは、税と聞いても涼しい顔をしている。

彼らは、税金を取る側だからな。


「税が何に使われているか、と考えたことはあるか?」


そう問いを投げかけてみる。案の定、ミケリーノ助祭を除く全員が考えたこともない、という顔をした。

公教育というものが普及していないのだから、当然のことだ。


「ええと、よくわかんないけど、お貴族様の服とか食事になってるんじゃないの?毎日、綺麗な服を着替えて、お肉と白いパンを山ほど食べてるんでしょう?すごくお金かかりそう・・・」


とサラが言う。


「バカね!食事よりも服よ服!それから宝石!あとは流行の靴!それは屋敷の装飾品!そういうものに使ってるのよ!燭台も銀、食器もピカピカの銀なの!私、何度もお貴族様の屋敷に入ったことあるんだから!金と銀の装飾が屋敷中にあって、ものすごいキラキラしてるのよ!」


とは、アンヌの言葉。


「よく知らねえが、剣や鎧を買うのに使ってんじゃねえのか。お貴族様の板金鎧ってのは、一つ一つの部品が身体に合わせた手作りなんだ。魔法の効力を付与するための彫刻も凝ってるし、ありゃあ高くつくからな」


とはゴルゴゴ。


「軍隊の維持に使ってんだろう。何しろ軍隊ってのは金食い虫だからな」


とキリク。


彼らの意見に、俺は頷く。


「みんなの意見は、どれも合っていると思う。ただ、本当にそうか知ることはできない。そうだろう?」


「まあ、税ってのはそういうもんだからな」


とキリクが答える。

これが、この世界の平均的な租税観と言っていいだろう。

税金は一方的に課されるもの。用途はわからない。


「もし税の使い道が知らされたら、どう思う?」


「どうって・・・そんなことあるわけないじゃない!」


アンヌが否定するが、そこは思考実験として先を続けてもらいたいので、議論を続けるよう促す。


「仮にだよ。もしお貴族様が取り上げた税が、何に使われているのか、庶民の俺達にも文書や言葉でわかりやすく説明されることになったら、どう思う?」


そう問うと、全員が目を閉じて考える様子になり、唸っている。

貴族が税の使い道を庶民に説明する、という仮説の設定に苦しんでいるようだ。

しばらくして、アンヌが声をあげた。


「そうね・・・少しは納得して税を払うかもしれないわね」


「そうじゃな」


ゴルゴゴも賛成する。

だが、サラの意見は少し違った。


「そうだけど・・・使いみちがおかしかったら、すごく不満になるかもしれない。だって、弟と妹がお腹を空かせてるときに、貴族様が税でお肉とかをお腹いっぱい食べてるって知ったら、やっぱり頭にくるもの」


その意見を聞いて、他の3人も意見を変える。


「たしかに、そうだな」


「まあ、そんなことありえないけどね!」


「まあのう、お貴族様が税の使い道を庶民に教えるわけないからのう」


貴族様への庶民の信頼感のなさが厚い。

公教育のない世界の封建領主というのは、まあ、そういうものだろう。

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