第184話 冒険者ギルド再訪

座っていて考えが浮かばないときは、優柔不断で迷っているのではなく、単純に情報が足りないのだ。

座り込んで迷うぐらいなら歩く。歩いて、人と話して情報を詰め込んでいるうちに、何か方策が浮かぶだろう。


そう考えて立ち上がり工房から出ると、サラとキリクがついてくる。

護衛のキリクはともかく、サラが一緒に来る必要はないのだが、まあ、いいか。


「どこに行くの?」


と聞かれたのだが、特に決めていないので答えに困る。


「ちょっと市場調査と営業だよ」


と、まるで会社をサボる営業マンのような答えになってしまった。


「ふーん」


というサラに返事には、微妙に納得していない響きを感じる。


だからというわけではないが、取り合えずの行き先として冒険者ギルドに向かう。

ここ2週間ほど、冒険者ギルドに顔を出していない。

なにせ聖人と呼ばれている、などという噂を聞いては足を運びにくいではないか。

とは言え、冒険者達の現状については気になる。


教会と組んだことで、冒険者の負傷者、死者に対する手当や葬儀が行われるようになり、それは冒険の成功率や生存率に良い影響を及ぼしている筈なのだが、それが統計に表れてくるのは、まだ先の筈だ。

まずは冒険者達の所感を聞きたい。それに守護の靴の評判も直接に聞いてみたい。


本当は変装でもして本音を聞きたいところだったが、工房から出てきたままの格好だから仕方ない。

今は護衛がいないと自由に街中も歩けない身だ。まったく不自由なことだ。


それに変装だけしても、キリクのような大男が護衛についていたのでは、普通の冒険者でないのは、まるわかりだ。それに今は剣牙の兵団の腕輪をしているし、守護の靴も履いている。隣を歩くサラは剣牙の兵団の腕輪に加えて、赤い守護の靴という、この街では彼女だけの靴を履いているのだから、目立たない筈がない。正体を隠してヒアリングをする、という趣味の覆面調査は別の機会に譲るべきだろう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


冒険者ギルドに顔を出すと、俺達の姿を目にした冒険者達はあからさまにザワついた。


「おい、ケンジさんだぜ・・・」


「おお、今は貴族とか教会とかやり合ってるっていう・・・」


「ああ、あの聖人の・・・」


「さすが大商人の生まれは違うぜ・・・」


「なんか貴族の血を引いてるって俺は聞いたぜ・・・」


幾つか聞きたくない呼び方や、デマも聞こえてくる。

まあ冒険者なんて連中が行う情報収集の半分は、デマや与太話を集めるようなものだ。

文字を読める人間が少ないものだから、口コミに頼るしかないのだ。

結果として正確な情報が伝わらない。


今は余力がないが、いつか、そのあたりにも手を付けたい。

正確な情報は冒険の成功率を大きく左右するからだ。

もっとも、冒険者になるような連中は、そもそも字が読めないし、字が読めるだけの教育を受けた連中は冒険者にならない。ジレンマというやつだ。


受付から職員が迎えに来る。

久しぶりに、ウルバノが会いたいのだと言う。


あの二重顎は、うまくやっているだろうか。

俺も、少し会うのが楽しみだ。

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