第57話 足音

気を取り直して、団長(イケメン)に


「団の評判は、だいぶ上がっているようだな。」


と話題を振ると


「まだまだ、道は半(なか)ばだよ。だが、手ごたえはあるな。」


団長(ジルボア)は、嬉しそうに言った。


世間に認められている、という意識は人を大きく変える。


冒険者の狭い世界では認められていたものの、

広い世間では怖がられるか、貴族からは便利屋扱いされていた剣牙の兵団。


それが、街の市民達に認められている。

戦い、成果をあげると歓呼の声で迎えられる。

その集団の一員でいることに誇りを持てる。


その経験が、団員達の意識を大きく変えたのだ。

誇り高い精鋭と称えられることで、そのようであろうと努力するものだ。


最近は、訓練や実戦でも団員達の目の色が違うという。


「お前の助言は役立った。感謝する。」


「いや、あんたの力だよ。俺じゃ、こうまで直ぐに成果はあげられなかった。」


それは俺の実感だった。

ジルボアの行動力、指導力は本当に大したものだ。


良いと思ったら誰の意見でも聞き入れる。

聞き入れるべきポイントがあったら、すぐに行動する。


個人的な武勇よりも、その姿勢と行動力こそが、

この男を伝説の男にしたのかもしれなかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


しばしの歓談の後、ところで、と訪問の本来の話を切り出す。


「冒険者のための靴、が完成したんだ。

 一流クランの、意見を聞かせてもらいたい。」


俺は持参した冒険者用の靴のサンプルを見せた。

1カ月がかりで苦労して作った、量産品0号だ。


「ゴツイが、地味だな。靴と長靴の中間のような靴なのか・・・?

 それに靴底が厚い。紐がついているな。不思議な靴だ。」


それが、靴を見たスイベリーの意見だった。


「それに、内貼りが厚いな。つま先が補強してある。何の皮だ?」


ジルボアは素材や内部が気になるようだ。


「スイベリー、この靴を履いてみてくれないか?意見が欲しい。」


本当は団長に履いてもらいたかったが、実戦部隊の長である副長の意見を

聞いた方が、開発のサンプルにはなるだろう。


早速、靴を履いてもらおうとしたが、

まず、靴下を履いてもらうのが一苦労だった。


ここの連中は、寒冷地でない限り靴下を履くという習慣がない。

だが、俺は靴の密着度を上げるために靴下を履くことを譲らなかった。


そして、靴を履かせた後に、靴紐を締める。


「靴なのに、サンダルのような奇妙な仕組みだな。」


インソールの感想は


「靴の中に絨毯が敷いてある。」


靴を履いて、歩いてもらうとスイベリーの顔色が変わった。


「おい、こいつはすごいぞ。硬い床を歩いているのに、

 極上の絨毯の上を歩いているようだ。」


ジルボアも目の色を変えている。


「強度はどうなんだ。戦ってる間にすっぽ抜けたりはしないのか。」


「いや、足首まで靴があるせいか、固定は完璧だ。

 紐でしっかりと絞められて密着している。

 膠(にかわ)で靴と足がついたようだ。」


俺は補足する。


「つま先には特別な革が使われている。

 多少、踏まれたり武器の柄が落ちたぐらいでは

 怪我はしないはずだ。」


「ほう!なるほど、靴先で蹴っても痛くない。

 革靴なのに、つま先はグリーヴ(鉄のブーツ)のようだ。」


ガンガン、とつま先を床に嬉しそうにブツける。

おい、床が傷ついても知らんぞ。


「それに、靴の形は左右で違ってる。親指部分を広くとってあるから

 剣士達が踏ん張っても、足指が痛まないようになっている。」


「ほほう、!たしかに踏ん張りがきくぞ!」


少し待ってろ、と言ってスイベリーは靴を履いたまま、

事務所の外へ走って行ってしまった。

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