第五章 靴づくりをはじめます

第45話 そこは革通り

皮革を専業とする者たちが、作業所を構えている街区。

通常、革通りと呼ばれている場所は、3等街区でも城壁に近い場所に

固まって軒を連ねている。


「・・・やっぱり、ここのあたりくっさーい。」


「コラ、大声で言うな。気難しい連中が多いんだから気を付けろ。」


工房からは、何かを煮ているような煙や薬品の匂いが立ち昇り

ゴツイおっさん達が皮や何かを入れた桶を持って忙しく立ち働いている。


「はじめて来たけど、何か忙しそうだね。」


動物の皮を、革に加工するには複雑な工程を踏む必要があり、

その専門業者達は、さながら現代世界のコンビナートのように

密集して、お互いの中間製品をやり取りしている。


「ああ、夜は作業できないことになってるからな。

 昨夜のうちに薬品に漬けていた皮を加工に回してるんだろう。」


俺の知っている範囲では、動物の皮を剥がした後、内側の肉や脂を

こそげ取って、塩で茹でて、薬品で洗って、タンニンで鞣(なめ)し、

それで原皮と呼ばれる動物の展開図のような皮革になるハズだ。


その過程で使用する薬品に発がん性があるとかで、東京都内の

業者は廃業に追い込まれていたような記憶がある。


流通する皮革は、圧倒的に豚が多く、牛がそれに次いでいた。


だが、この世界では当てはまらない点も多い。


「わっ、あの皮でっかい角が生えてたよ。巨大鹿かな?」


一番の違いは、流通する皮が怪物(モンスター)素材であることだ。

討伐された魔物の肉は、その場で捨てられるが、皮は違う。


持ち帰ると報酬が出るので、ほとんどの動物型の魔物の皮はギルドに

売却されて、皮革通りにやって来る。


一部には人型の魔物の皮も、同じように利用されると聞いたことは

あるが、見たことはない。


怪物の皮ごとに、処理をする専門の業者がいる、という噂だ。


魔狼(ダイアウルフ)と人食巨人(オーガ)では、皮の形も

厚さも工程も違うだろう。使用する薬品も違うかもしれない。


要するに、冒険者用の靴を作ろうと思ったら、革の調達は、

専門業者である、ここの連中を抑えないとダメだ、ということだ。


少なくとも、靴のギルド連中に邪魔されないように顔を繋(つな)いで

関係を作っておく必要がある。


もし靴ギルド経由で革を仕入れるハメになったとしても、

原材料の価格を抑えておけば、ボラれることを防ぐことができる

だろう。

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