第17話 靴商売の成算

特製の冒険者靴が有用なことはわかった。

しかし製造費が高い。駆け出しの冒険者(びんぼうにん)には金が出せない。


というのが、サラの指摘する問題だ。

 

だが、製造費を安く抑える方策(あて)はある。


「そうなの?」


「ああ。」


この世界では、靴は完全なオーダーメイドだ。

靴職人に注文し、木型を削って作り、足が痛ければ調整する。

 

しかし、その靴には左右の区別がないし、アーチもなければヒールもない。

靴紐穴もなければ、インソールという概念もない。


現代の靴を再現した俺の靴に比べると、圧倒的に部品が足りないのだ。

専門の靴職人を育成しようと思えば、10年でも足りない。


だから、靴の型を起こして標準サイズの部品を、何人かの革職人にバラバラに発注する。


組み立てについても、専門の靴職人を割り当てる。

この靴職人は、囲い込む必要がある。


部品での発注と組み立て。

元の世界で言う、マニュファクチャリングだ。


生産性を高くすると同時に、製造の秘密が守れる。


そして、数を作れば安く作れる。

製造業の偉大なところだ。


今の俺には、それぐらいは手配できる資産(かね)と手段(つて)がある。


簡単に原価計算をしたところ、年間で100足売れれば、靴の単価を大銅貨1枚に抑えられる目途が立っている。


靴職人ギルドとの交渉は厄介だが、冒険者の専用靴とするならば出る数は知れている。


奴らが靴の異常さに気が付かないうちに、契約を結んでしまえばよい。


このあたりまでの計画と説明を聞いて、サラは目を丸くしていた。


「あんた、ほんとになんなの?靴職人だったの?商人だったの?でも剣士よね。冒険者だし。」


元の世界でコンサルをしていたときも、何の商売してんの?とは、よく言われたものだったが、久しぶりにそれを思い出して微(かす)かに笑った。


経験上、そう言われるときは商売が上手くハマるときだ。


この商売(ビジネス)は、行けそうだ。

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