剣士ハモンドの熱情

第1話

「はっ、やあっ!」

 日ごとに寒さも増し、すっかり冬めいてきたある日の昼下がり。女剣士マーシャ・グレンヴィル所有の桜蓮荘の中庭では、今日も木剣のかち合う音が鳴り響く。

 マーシャが相手をしているのは、年のころ三十過ぎの男である。満月のように丸い愛嬌のある顔と小太りの身体つきは、いかにもひょうきんそうな印象を与ええる。しかし、その剣は外見の雰囲気からは考えられぬほど苛烈で力強い。見るものが見れば、その小太りの身体には剣士として必要な筋肉がしっかりと蓄えられているのがわかるであろう。

 しかし、マーシャはその剛剣をあるいは避け、あるいは打ち落とし、一つ一つを実に冷静に捌いていく。かつてこのシーラント王国で最強と呼ばれたその剣の腕は、表舞台から退いて数年を経た今でも衰えを見せぬ。

 男の剣を小気味良く捌きつつも、マーシャは隙を見て鋭い一撃を放つことを忘れない。並の剣士ならばとっくにかたがついているところなのだが――男もさるもの、マーシャの剣をしっかと受け止め、さらなる猛攻を加えんとする。

(しっかりとした剣筋だ。膂力も持久力もある)

 まだまだ本気ではないマーシャであるが、それでもここまでマーシャと渡り合える剣士はそういるまい。ほんの一瞬口の端を上げると、マーシャは男の剣を弾いて大きく間合いを取った。

「ハモンド殿、今度はこちらから参りますぞ」

「応、どこからでも来られよ」

 マーシャは剣を下段に構えた。だらりと脱力したその構えは、一見すると隙だらけだ。しかし、それが余計なちからを抜いた理想的な姿であることを、ハモンドなる男は見抜いている。

 マーシャは、ハモンドの肩や胸郭の微細な動きからその呼吸の間隔を測る。そしてハモンドが息を吐いた瞬間、マーシャは動き出した。

 静から動へ。一気に加速したマーシャの身体は、ハモンドの眼には実際よりも遥かに速く感じられただろう。剣を引き寄せ、慌てて防御の体勢をとるハモンドであるが――あと一歩で互いの間合いのうち、というところでマーシャの身体は急停止した。

 最初の勢いのままに斬り込んでくると思っていたハモンドは虚を突かれた。そして、混乱する思考よりも先に、その身体が反応してしまった。すなわち、動きを止めたマーシャに向かって剣を振り下ろしたのである。

 しかし、マーシャの身体は既にハモンドの視界から消えていた。静から動、動から静。そしてふたたび静から動へと転じたマーシャは、その速度差でもってハモンドの眼を完全に置き去りにした。

 しまった、そう思う暇もなく、ハモンドの身体は背中から地面に叩きつけられていた。ハモンドの右手に回り込んだマーシャが、すれ違いざまハモンドの膝裏をすくい上げるように打ったのである。

 立ち上がる隙も与えず、マーシャが木剣をハモンドに突きつけた。勝負ありである。

「……参りました。いやあ、さすがは『雲霞一断ヘイズ・ディバイダ』、ここへ来てからというもの驚かされっぱなしですわい」

 歳下の女性に敗れたにもかかわらず、ハモンドは屈託なくそう言った。外見通りの朗らかな男なのである。

「お噂はかねがね聞いておりましたが、まったく魔法にでもかけられた心地です」

 などと大真面目に語るハモンドに、マーシャは苦笑を禁じえない。

「あなたを紹介してもらえたのは幸運でした。短い間なれど、あなたとの修行は実に実り深いものになりそうです」

「私などがお役に立てるのならば、いくらでも助力いたしますよ。なにしろ、隠居の身で暇を持て余しておりますゆえ」

「ううむ、しかしそれほどの腕を持ちながら、その若さで引退なされるとは……私のごとき非才の身からすれば、実に惜しい、もったいない――」

 マーシャが複雑な表情を浮かべるのを見て、ハモンドは慌てて口をつぐんだ。個人の事情に軽々しく踏み込むことが、いかに礼を失する行為であるかということに思い至ったのだろう。

「いや、失礼いたしました。立ち入ったことを尋ねてしまうところでしたな」

 と、ハモンドがきっちりと失言を謝罪する。こういう表裏のなさは、マーシャも好ましく思うところだ。

「いえ、お気になさらず。さて――今日はここまでにいたしましょうか」

「はい、ありがとうございました」

 そう言って、ハモンドがまるで自らの師匠にでもするかのような丁寧な挨拶をするものだから、マーシャも尻のあたりがむずがゆい。

「ハモンド殿、これからのご予定は?」

「はい。王都を見物がてら、知己を訪ねようかと」

「そうですか。では、お気をつけて」

 マーシャは、ハモンドの丸々とした背中を見送るのであった。


 さて、ここでニール・ハモンドなる人物について述べねばなるまい。

 彼はシーラントの王都・レンから見て南、山を三つ四つ越えた先にある都市、カーラックに暮らす剣士である。

 彼が師事するのは、マーシャの師、マイカ・ローウェルの弟弟子に当たるオットー・リンゲートという人物だ。カーラックのリンゲート道場にて、ハモンドは二十年来修業を積んできた。マーシャとはいとこ弟子・・・・・の関係になる。

 裕福な武家の三男であるハモンドは、特に暮らしに不自由することもなく剣の腕を磨くという生活を送っていた。

 このたび彼がレンに上ってきたのは、半月ほどのちに行われる武術大会に出場するためである。

 ハモンドはリンゲート道場で修業するうち、師匠の一人娘・カミラとただならぬ仲・・・・・・となった。カミラは当年二十になる、ところでも評判の美女である。御世辞にも美男とは言えぬハモンドにカミラが惚れたのも、ひとえに彼の実直さと剣にかけるひたむきさがあったからだろう。

 師・リンゲートとしても、ハモンドは幼少時から手塩にかけてきた愛弟子であることだし、彼の人柄もいたく気に入っている。二人の間柄を察したリンゲートは、晩餐にハモンドを招いてこう切り出した。

「どうか一人娘をもらってくれぬか」

 一も二もなく承諾するかとおもいきや、ハモンドは難しい顔をして考え込んでしまった。

「……お師匠様。お申し出は真に嬉しく存じます。天にも昇る気持ちとはこのこと。しかし――」

「しかし、なんだ」

「お嬢さんと結婚するということは、つまりこの道場の跡取りとなるということ。私めでよろしいのでしょうか」

「何を言う。お前の実力が道場随一なのは皆が知るところ。そもそも、娘の件がなかったとしても、私の後継はお前を置いて他にないと思っておったのだ」

 それは、リンゲート本心からの言葉だったし、ハモンドの実力が道場一であることも事実だ。

「しかし――私には実績がありませぬ」

 実力は確かだけれども、暮らしには困っていないし、欲のない人柄ゆえハモンドはあまり積極的に対外試合に出ようとしてこなかった。マーシャが公式戦で二百近い勝ち星を積み上げているのに対し、ハモンドは二十をようやく超える程度の勝ち星を持つのみである。

「道場の仲間たちはともかくとしても、口さがない世間の人々は『リンゲート道場はどこの馬の骨ともわからぬ剣士を後継に据えた』などと申すやも知れませぬ。それに……下手をすれば、私が道場を我が物としたいがためにお嬢さんに近づいた、などと邪推する者もでるやもしれませぬ。そうなれば、まさに遺憾の極みにございます」

 リンゲート道場は、カーラックの街で一、二を争う名門とされている。ろくな実績もない男がその道場主となっては、訝しむ者がでるのも無理からぬことである。

「ふうむ、お前の言いたいことはわかった。しかし――カミラと一緒になりたくないというわけではないのだろう?」

 この質問に、ハモンドは慌ててかぶりを振った。

「ならば、どうするというのだ」

「……かねてより、考えていたことがございます。この冬、王都にて行われるマルグリット杯に参加しようと思います」

 シーラント二代国王の后の名を冠したマルグリット杯は、一年に一度開催される武術大会である。各地の予選を勝ち抜いた選りすぐりの武術家が一同に会し、トーナメント方式で優勝杯を争う。俗に「三大賜杯」などと呼ばれる大会のひとつで、国内でも屈指の権威を持つ。これに優勝することは武術家にとって大変な名誉となるだろう。リンゲート道場の後継者としても、なんら恥ずかしくない実績となる。

 ちなみに、マーシャはかつてこの大会で三連覇を達成。そして、マーシャの師・マイカはなんと七連覇を達成しているが、「清流不濁クリア・ストリーム」の二つ名はこの偉業を称えて与えられたものである。

 余談はさておき。ハモンドはめでたく地方予選を勝ち抜いた。そして、師匠の兄弟子であるマイカを頼ってレンにやって来たのだ。大事な大会を前に腕試しの相手としてうってつけの者がいる、とマイカに紹介されたハモンドがマーシャのもとを訪ねたのが、三日前のことであった。

 こころが弱い者ならば、マーシャの圧倒的実力を目の当たりにし自信がへし折られ、大会を前に調子を崩しかねない。しかし、マイカはこの男ならば大丈夫と踏んだのだろう。


 ハモンドが桜蓮荘を辞したのち、マーシャは師・マイカのローウェル道場をおとなった。ハモンドとの修行の様子を報告しておこうと思ったのだ。

「どうじゃ、あの男は。肥えた子豚のような面をしておきながら、なかなかどうして大したもんじゃろう」

 本人がいないのをいいことに、好き勝手言うマイカである。もっとも、当のハモンドがその場に居合わせたとて「いや、全く仰るとおりにございます。私も、いま少し痩せていたころは女人にも騒がれておったものですが」などと冗談を飛ばしていたに違いないのだが。

「はい、あの水準の剣士はそう見られるものではございませぬ。マルグリット杯においても、いいところまで行くのでは」

「そうさのう。なにせ、奴にとっては結婚がかかっておるからの。気力も満ち溢れているじゃろうて」

「しかし――あれほどの腕前ならば、実績などにこだわらずともよいのでは。道場主としてやっていくうちに、世間の評価は自然とついて来るように思われます」

「それはあれよ。男の意地というやつじゃ。結婚を前に勲を立てて嫁ごを迎えたいのじゃろう」

 マイカがにやりと笑った。

「ううむ……私にはいささか理解しかねます」

「男とはそういうものじゃよ。惚れた女の前では格好をつけたがるものさ」

「では、お師匠様にもお心当たりが?」

「まあ、そうじゃな。うちのあれ・・もな、今でこそ皺くちゃの婆さんになってしまったが、若いころはなかなかの女ぶりでな。恋敵を勝ち抜くのに手っ取り早い方法といえば、やはり武術の世界で活躍することじゃ。わしも随分気張ったもんじゃよ」

 意外な言葉であった。若かりしころのマイカは自らを追い込むような激しい荒行を積み、ひたすら剣の道に邁進する禁欲的な男だった――マーシャはそんなふうに伝え聞いていたからだ。

「なんじゃ、そんなにおかしいか」

「はい」

 マーシャは正直に答える。

「剣の道を極めたいという想いが第一にあったのは無論のことじゃがな。しかし――あれにいいところを見せたいという気持ちが三割ほどはあったのは間違いない。まあ、若い男が一意になにごとかに打ち込む場合、その動機に女が絡まないほうが珍しいと思うべきじゃな」

 マイカはおどけた表情を見せた。どこまで本気で言っているのか、マーシャには計りかねるのであった。

「そういえばマーシャよ、マルグリット杯といえば、少し耳に挟んだことがある」

 と、マイカは話題を変えた。

「ほれ、なんといったかな……マルグリット杯でマーシャが三度戦った剣士……」

「ああ、カッセルズ殿のことですか」

 ケネス・カッセルズ。マーシャが出場した三度のマルグリット杯で優勝候補と目されながらも、三度ともマーシャに敗れた男である。

 最後に対戦したのは六年前であり、当時カッセルズは三十前後であったから現在は三十五、六歳になっていようか。

 かなりの遣い手であり、さまざまな試合で輝かしい成績を修めてきた男なのだが、マルグリット杯のみはどうしても手にすることができなかった。年齢的に剣士として脂が乗る時期と、マーシャの短い現役時代とが重なった不運といえよう。

 一度も負けなかったとはいえ、その精緻を極めた技巧的な剣は、マーシャにとって印象深いものだった。

「そう、そのカッセルズがの、久方ぶりにマルグリット杯に出るらしい。まだ正式発表前ゆえ、ここだけの話じゃがの」

 武術界に顔が利くマイカが、どこからか仕入れてきた情報らしい。

「なんでも、数年どこぞの山に篭り、世間との関わりを断って凄まじい修行を積んできたとか」

「ふむ、それは興味深い……」

 カッセッルズの年齢は三十半ばだから、肉体的には下り坂を迎えているはずだ。しかし、武術家の「強さ」は、必ずしも肉体の強さと比例しない。

 マーシャがいなければ、彼が三連覇していてもおかしくなかった――そう評されたカッセルズである。マーシャに敗れた悔しさをばねに、相当な研鑽を積んできたに違いない。

「おそらくは、そなたとの再戦を期してのことじゃろうが……」

 もっとも、その荒行の間、マーシャが二十三歳にして表舞台から姿を消そうとは、カッセルズは夢にも思わなかったであろう。

「しかし――そうなると、ハモンド殿にとっては大きな障壁になるやも知れませぬな」

「うむ。確かに」

 マーシャという目標を失って意気消沈するのならばそれまでの剣士だった、ということになるが、彼と三度にわたって戦った経験のあるマーシャは、

(それしきで気力を失うほどこころの弱い男ではあるまい)

 と診る。

 大会出場者が発表されれば、ハモンドがマーシャのいとこ弟子であることは容易に知れよう。そうなれば、ハモンドに対し人一倍の対抗心を向けても不思議ではない。

「二人の勝負、マーシャはどう見る?」

「正直なところ、やってみなければわかりませぬ」

 六年前のカッセルズと現在のハモンドならば、ハモンドのほうに分があるというのがマーシャの見立てである。カッセルズがこの数年でどれほど実力を伸ばしたのか――それで勝負が分れる。

「さすがにマルグリット杯、簡単にはいかぬか。まあ、強敵を破ってこそハモンドめにも箔がつくというものじゃ」

 マイカの言葉に、マーシャも頷くのだった。

 そこで、マイカの妻女・メリッサが応接室のドアを叩いた。

「お話中ごめんなさい、あなた、お客様が」

「客? 誰じゃね」

「警備部のかたですって。何でも、急ぎのご用事とか」

「警備部がわしに何の用事があるというのじゃ……まあよい、通してくれ」

 気を使ったマーシャが席を立とうとすると、マイカがそれを制した。マーシャは彼にとって娘同然の存在だし、聞かれて困るような用事ではあるまい、とのことである。

「失礼いたします、警備部のジョーンズと申します。かの名高きマイカ・ローウェル殿にお目にかかり、恐悦にございます」

 と、警備部の隊員が慇懃に挨拶した。

「それで、用事というのはなんじゃね」

「はい。こちらにニール・ハモンドなる人物が逗留されているのはまことですか」

 マイカが首肯する。

「なんじゃ、奴がなんぞやらかしたのか」

「なんと申しましょうか……いや、悪事を働いたというわけではないのですが」

 ジョーンズなる兵士が語ったところによると……

 旧友宅を辞してハモンドが往来を歩いていると、十数人の男たちが路上で揉めている場面に出くわした。試合前の大事な身ゆえ、余計なことに首を突っ込むのはためらわれたのだが――道に面した罪もない店々に被害が及ぶのを見、とうとう黙っていられなくなった。

「はじめは仲裁を試みられたそうなのですが、どうにも収まりがつかず……とうとう、連中はハモンド殿に手を上げたと」

 ここへ至っては仕方ない。ハモンドは大立ち回りを演じ、男たちを撃退してしまったという。

「ハモンド殿が一人で?」

 ハモンドの力量はマーシャも認めるところだ。五人や六人相手ならばもののの数ではない。しかし、十数人相手に勝利するというのはマーシャもにわかに信じられぬ話であった。

「いえ、たまたま通りがかった凄腕の御仁が助勢したらしく――ただ、その方は名も告げずに立ち去ったそうです」

 この通りすがりの助太刀を得て、ハモンドは見事狼藉者たちを敗走させることに成功した。若者たちが真剣を身に帯びていなかったのも、ハモンドにとっては幸運だっただろう。

「その路上で暴れたという不届きな連中は何者だったんじゃ」

「カリム道場とヤーマス道場の若い者たちだということです」

 ジョーンズの言葉に、マーシャとマイカはなるほどと納得する。

 数代前の道場主同士に因縁があったとか、それ以上詳しいことは二人も知らないのだが、とにかくこの二つの道場は仲が悪い。何かにつけて対抗心を燃やし、いがみ合う間柄なのだ。

 どちらも歴史のある名門として知られ、門下生の数も多い。ある程度の規模の大会ならば、必ずどちらかの道場の門下生の名を見ることができるほどだ。

「そもそもの喧嘩の原因は?」

「双方の若者たちが連れ立って歩いているところで出くわし、道を譲らなかっただのなんだのとつまらない理由から喧嘩になったらしく……まったく、勘弁してもらいたいものです」

 マーシャの質問に、ジョーンズは嘆息交じりに語った。

「嘆かわしいことですね」

「まったくじゃ。ふたつの道場の当代の道場主とはあまり面識はないが――話をする機会があらば、わしからも一言言っておかねばなるまい」

 シーラント武術界の重鎮であるマイカとしては、一部の不心得者の行動で、武術家全体が色眼鏡で見られるような事態は防がねばならない。

「して、お主はなぜわしのところに来たんじゃね。ハモンドに咎はないのじゃろ」

「はい。むしろ、われわれとしては感謝状を贈りたいくらいです。しかし、暴力事件の当事者として、一応身元の確認だけはせねばならない規則でして」

「左様か。では、警備部の詰め所に行けばいいかね」

 と、マイカが腰を上げる。

「いえ、それには及びません。一筆書いていただければ事足りますので」

 差し出された書類にマイカが署名する。

「お手数をおかけしまして申し訳ございません。ときに――そちらの方は、もしかしてマーシャ・グレンヴィル殿では?」

 マーシャが首肯すると、ジョーンズの眼はにわかに熱を帯びだした。

「いやあ、感激であります! あのトランヴァル杯決勝、自分も会場で拝見させていただきまして――生きた伝説と言われる『雲霞一断』と間近でお会いできるとは! 『清流不濁』に『雲霞一断』――こうして同時に目の当たりにできるなんて、まさに役得! 警備部に入って本当によかった……!」

 熱っぽく語るジョーンズに、マーシャとマイカも困惑を隠せない。

 ジョーンズはひとしきり想いのたけを吐き出したのち、意気揚々と引き上げて行った。

「どうやら、彼は武術愛好家だったようですね」

 マーシャも、同様の人間を何人か知っている。武術に限ったことではないが、なにかの愛好家というものは、その分野に対する情熱を抑えきれなくなるときがあるものだ。

「しかし――わしよりも、マーシャに対したときのほうが興奮しているように見えたがの」

 年甲斐もなく拗ねたような表情を見せるマイカに、マーシャも曖昧に笑うしかないのであった。

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