Track-7 ビバライフ

 職場から少し離れた山田家に招かれるとボクは耕作さんとその奥さんとで食卓を囲んだ。「いいんですか。食べさせてもらっちゃって」


 キッチンから出てきたあつこさんがボクの前にご飯茶碗と卵を置いた。あれ?これって?もしかして?TKG?


 ボクが涙目で耕作さんに訴えるが耕作は黙って笑うだけだ。席についたあつこさんがボクに言う。


 「洋一、ひよこのオスとメス、間違えすぎ。

 女の裸、見たことないんじゃないの?」

 「う、うっせぇな!」「クォラ!食事前に下ネタは止めなさい!」


 耕作さんの奥さんに口喧嘩を止められるとボク達は食卓で手を合わせた。

「いただきます」ボクは筋肉痛の両腕を上げ卵をかき混ぜた。


 「ちゃかちゃかちゃかちゃか、かき混ぜんの、止めろよ」「すいません、お醤油とってもらえませんか?」


 あつこさんの嫌味を無視し、耕作さんから醤油を受け取るとご飯の上に流した卵の上に醤油を垂らした。いくらペナルティとはいえど重労働のあとに卵かけご飯だけ、って俺を舐めてるのか。怒るでしかし。だがしかし。口の中にご飯をかっこむと甘味で頭の中がふっとんだ。「う、うまい!」ボクは思わず立ち上がりテーブルをシンバルを抱えたサルの人形のごとく叩いていた。


 「今日採れた卵だからねー。栄養価もたっぷりだ」「すいません!おかわりください!」速攻で平らげたボクがキッチンに向かおうとすると奥さんが代わりにご飯を注いでくれた。


 採れたての卵がこんなにうまいとは。白身が鼻水みたいにビロンビロンにならず卵黄に厚みがあって食べごたえがある。


 結局ボクは卵かけご飯だけで5杯もおかわりをした。「はぁ~ごちそうさまでしたぁ~」「...本当にTKGだけで晩飯済ませたよ、この子」


 食事が済みあつこさんがキッチンに向かうとボクは食器の洗いを手伝うことにした。らーめん屋で皿洗いのバイトをしていたので食器を洗うのだけは得意だった。


 あつこさんにTKGの味についての感想をいうとあつこさんはこんなことを言った。


 「そりゃ、キミが食べた卵だって雌鶏が肛門痛めて生んだ魂だからね。キミが今日鑑別したひよこたちだって将来は食用になったり

『 卵を生む機械 』になったりする」

 「そっか、ボクがあの卵を食べてなかったらピースケ達がこの世に生まれて来ていたのに...南無三...」

 「ひよこに名前つけんなって。別れが辛くなるよ」

 「まぁ、ともかくおいしいご飯が食べれて満足です!

 生命ばんざい!ビバ・ラ・ビダ!」

 「そ、そうなんだ...それよりさぁ、」


 「おーい、ティラノ君、風呂上がったぞー。次入りなさい」「はーい、わかりましたー」


 食器洗いが済んだのでボクはもじもじしているあつこさんの横を通り過ぎ風呂に入った。ゴムがのびのびの耕作さんのパンツを履くとボクは用意された自分の部屋の布団に横になった。


 「はぁ~、一日仕事もしたし、うまいご飯も食ったし、風呂にも入ったし...世は満足じゃ」


 うとうとし始めると頭のなかに「一本満足」のキチ○イみたいなCMが浮かんだ。 「まん、まん、満足!...じゃねぇよ!ギター特訓しに来たんだろ!」


 起き上がりギターをつかもうとするがどうにも体が限界だ。ごめん、今日、無理。ボクは半ケツを出したままそのまま眠ってしまった。



 「洋一、洋一、起きてる?」夜中に布団で寝ているとあつこさんの声が聞こえる。まだ仕事の時間には早いはずだ。「う、う~ん、起きてますけど」


 目垢だらけの目をこすり目を開けるとあつこさんがボクの上にまたがっていた。え?うぇえ!?「洋一、セックスしようぜ」


 うわわぁ~、ちょっとォ~!ボクが抵抗しようとするとあつこさんに両腕を抑えられた。「あたしの事、嫌?」温かい吐息がボクの鼻をくすぐる。


 「いや、嫌じゃないですけど...」「すっごい硬くなってる」あつこさんが腰を上下左右に動かすとボクは全身の力が抜けた。


 「い、いや、始めては好きな人と...」「ごめん、聞こえな~い」うす暗がりで悦楽の笑みを浮かべ、騎乗位で腰の動きを早めるあつこさんを見てボクは恐怖がこみ上げてきた。


 「止めロッテ!」ボクが力一杯体の上のあつこさんをはねのけると下着姿の細い体が畳の上に転がった。ボクはパンツを履き、電気をつけるとあつこさんを見下ろして叫んだ。


 「いい加減にしろよ!あんた、いくつだよ!」「…36の女盛りです…」「はじめからボクの体が目当てだったんだな!」「だって...」


 目に涙を浮かべながらあつこさんが言う。


 「ライブの時に『ボクの童貞をキミにささぐぅーーー!!!』って言ってたから...」「それは表現上の比喩だ!36にもなったらわかるだろ!!」


 ボクは服を来てギターを抱えるとあつこさんを睨んだ。

 「帰る」「そ、そんな...」真っ平らの胸にはめられたブラから小梅がはみ出しているのが見えたがなんとか堪え

になりながらもボクは山田家の玄関をくぐった。


 「ズェッテェー、後悔するからね!」捨て台詞を吐くあつこさんを見てボクは早足でけものみちを下り降りた。


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