Chapter10 暴走 07

「ヘッヘ、OKオーケー。どォやらギャリガンが予知した通りの流れになッたようだなァ」

 オウガとフェンリルが睨み合うEフィールド、その階下。透過処理が施された天井越しに、ブラウンは状況を見上げた。意味深な笑いが、ブラウンの口角を吊り上げる。

 しかして、その笑いが続いたのはほんの数秒だ。劈く金属音と爆発音によって、ブラウンはすぐさま渋面に戻ってしまう。

「……アー。しかしこッちは上手くいかねェなァ、逆に」

 玉座に座すブラウンは、正面へ向き直りながら頬杖を突いた。石畳の床には既にダース単位を超えるグラディエーター達が横たわり、どれも関節の隙間等から煙を噴き上げていた。駆動系統の要所をピンポイントで破壊された為である。しかも何機かは霊力循環を完全に断たれ、幻燈結界げんとうけっかいの向こうに沈んですらいる有様だ。

「惨憺たるアリサマだなァ」

 そんなぼやきと溜息をブラウンへつかせたのは、無論ファントム3ことメイである。

「ガラクタが雁首揃えてゾロゾロと……」

 銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃。

 先程を遙かに上回る連射速度で、自動拳銃オートマティックが唸りを上げる。ブーストカートリッジが爆発的な加速力を生み続ける。

 そしてその速度に余す事無く全身を乗せる冥は、もはや紫色の疾風であった。

 凄まじい速度に加え、標的としてはあまりにも小さすぎるファントム3の影。それらの複合によって存分に攪乱された十七機目のグラディエーターの右肩へ、疾風はふわりと着地。すぐさまグラディエーターはゴーグル状のカメラアイを巡らすが、悲しいかな、冥の拳銃の方が遙かに早い。

「……手間かけさせないで欲しいもんだな」

 ゼロ距離、全弾、更には対大鎧装弾。グラディエーターは頭部を完全に破砕され、糸の切れた人形の如くへたり込む。

 衝撃。揺れる石畳。舞い散る装甲の欠片。それらを背に、冥はひらりと着地した。輪胴弾倉リボルバーの弾倉をスイングアウトし、薬莢代わりの残存霊力光を排出。弾倉内へ対大鎧装弾が再構築されるのを横目に、冥はタブレットへ手を伸ばす。転移術式を起動し、頭上のオウガへと加勢するためだ。

 だが、それは果たせなかった。

「いやはや。大したモンだなホントによォ」

 ぱん。ぱん。ぱん。Eフィールド内へ木霊する、乾いた音が三つ。タブレットの操作を止め、冥は顔を上げる。

 視線の先に居たのは、当然ながらブラウンだ。尊大に足を組み直す古代王ファラオは、満面の笑みを浮かべながら冥を見ていた。

「ファントム3が手練れだッてのは伝え聞いてたけどよォ。ここまで圧倒的たァ流石に予想外だったぜェ」

「そうかね。そいつは実に光栄だな」

 肩をすくめつつ、冥はタブレットの操作を再開する。

「おやァ? 何だか忙しいそォじゃねェか?」

「ああ、実は火急の用件が出来てしまってな。悪いがお暇させて貰うよ」

「へェ、そォなの……」

 頭の後ろで手を組みながら、ブラウンは玉座に大きくもたれかかる。

 そして、これ以上無いくらいに口角を吊り上げた。

「……残念だなァ、折角おかわり用意したばッかなのによォ」

「な、に」

 タブレットの操作を止め、冥は顔を上げる。

 その、直後だ。

 正面の柱、左右の床、引いては冥の足下からすらも。

 Eフィールド内、天井を除いたあらゆる場所から、起動前のグラディエーターたる金属立方体が一斉に現われ始めたのは。

「まだ在庫があったか……」

 舌打つ冥。しかもそれへ応えるように、ブラウンの前後左右四カ所へ巨大な術式陣が展開。

 霊力光が迸り、像を結び――かくて現われたのは恐竜型の大型まがつ、ディノファングである。

「……何ともはや」

 ほんの少し、冥は眉根を寄せる。この雑兵どもを無視して転移する事は、勿論可能だろう。だがそれをすれば、オウガはフェンリルのみならずこの大部隊と戦う羽目になってしまう。

 それを許す訳には行かない。ここで全て撃破するしか無い。

 例えそれが、ブラウンの目論見通りだったとしても、だ。

「火急の用件は後回し、か。さっきの約束、忘れるなよファントム4」

 タブレットを腰裏に戻し、冥は改めて二丁拳銃を構える。それと同時に、変形を終えたグラディエーター各機が、一斉に冥を見た。

「さぁ行けや! 第二ラウンドだぜェ!」

 ブラウンに従うグラディエーターとディノファングの混成部隊が、ファントム3目がけて一斉に襲いかかった。


◆ ◆ ◆


「ヘッヘ、OKオーケー。どォやらギャリガンが予知した通りの流れになッたようだなァ」

 オウガとフェンリルが睨み合うEフィールド、その上空。アメン・シャドーのカメラアイ越しに、ブラウンは地上を見下ろす。

 Eフィールド内部の自分と同じ笑みをたたえているが、こちらのブラウンはその表情を維持したまま、正面へ視線を戻した。

「ファントム、4……」

 同様に滞空している赤い大鎧装――赫龍かくりゅうのコクピットで、いわおは苦虫を噛み潰す。

 現状、赫龍の機体に大した損傷はない。今まで一撃離脱に徹していたのと、何よりレツオウガとの連携があったからだ。

 だが今、連携は崩れた。この状況でアメン・シャドーを撃破する事は、まず不可能であろう。せめてクリムゾンキャノンが使える間合いなら話は違うのだが。

「さァーて。次はアンタだなァ、ファントム・ユニットの隊長さんよォ――」

 アメン・シャドーが鎌を構える。下段。鋼色の三日月がぎらりと笑う。

「ち、ぃ」

 赫龍が腕部グレネードランチャー発射口を展開し、脚部ジョイントも露出。更にスラスターにも霊力を充填させる。

「――ドコまで楽しめッかねェ!」

 霊力光を撒き散らし、突貫してくるアメン・シャドー。迷いのない、余裕すら滲んでいるその挙動へ、巌は完璧にタイミングを合わせた。

「い、ま、だっ!」

 赫龍のスラスターが唸りを上げる。瞬間的に爆発した推進力が、赤いシルエットを一瞬で真上に押し上げる。

 空振りするアメン・シャドーの袈裟斬り。その挙動が終わらぬ内に、赫龍は脚部ジョイントへ生成した機関砲を斉射。

「チ、うぜェ!」

 数だけが取り柄の牽制弾は、当然ながら装甲を貫けない。だが連続して生じた小爆発は、ほんの一瞬アメン・シャドーの視界を奪った。

「全力、離脱ッ!」

 赫龍のスラスターが再び火を噴き、アメン・シャドーとの、引いてはEフィールドとの距離すら一目散に引き離す。

 赫龍は、ファントム1は、逃げ出したのだ。

「……ンだぁ?」

 鼻白むブラウンだが、それはほんの一瞬。赫龍の逃げた方向から、すぐさま巌の真意を割り出した。

「あッちは、そォか、モーリシャス本島!」

 モーリシャス本島にはレイト・ライト本社ビルがある。レイト・ライト本社ビル付近には、つい先程スノーホワイトを撃破した大鎧装、迅月じんげつがいる。レツオウガに変わり、それとの合流を目論んでいる訳か。

「ハ! 中々賢しいコト企むじゃねェか、エェオイ!」

 その賢しさが何を生むのか、ブラウン個人としては気になるところである。風葉かざはの暴走が完了した以上、ブラウンにとって後の戦闘は結果如何に関わらず、全てオマケなのだ。

 しかしてギャリガンへの建前上、今はまだファントム1排除のポーズもとらねばならないワケで。

「せッかくだから見せてくれよ! 二年前もやらかした、その計算高さをよォ!」

 アメン・シャドーの光輪が光る。五本のコロナ・シューターが、弧を描きながら赫龍へと追い縋る。

 着弾まで、後五秒。コクピット内を満たすロックオンアラートに、しかし巌は動じない。

「……」

 巌はほんの一瞬赫龍を減速させ、その遠心力で機体を回転。上下逆となった体勢でバランスを取りながら、腕部グレネードを真後ろへ射出。

 接触する光芒と弾頭。爆煙が、爆光が、またもや赫龍の姿を隠してしまう。

「はハン、やるねェ」

 加速を一旦緩め、アメン・シャドーは鎌を大きく薙ぎ払う。迸る風圧。これによって爆煙は一瞬で吹き飛んだが、赫龍との距離は予想以上に離れてしまっていた。

 さもあらん。爆煙によって生じた一瞬の隙を突き、巌は赫龍をビーストモードへと変形させていたのだ。こうなると加速力は赫龍の方が上である。

「チ。小技を……」

 舌打つブラウンだが、その表情はすぐさま余裕の色に戻る。

「……しッかし、流石はファントム・ユニット隊長サンだなァ。やる事が逐一小狡い!」

 即座にスラスターを噴射し、アメン・シャドーは後を追う。先行する赫龍はもう豆粒のように小さい。

日乃栄ひのえ霊地ン時は邪魔が入ッたが、今度こそ切り捨てるワケだ! 用済みになったゼロツー……じゃねェか。タツミ・イツツジをよォ!」

 叫ぶブラウンであるが、当然ながら赫龍は止まらない。モーリシャス本島はもう目前だ。

 何か企んでいるのは疑うべくも無い。だが、それを馬鹿正直に待っている理由もない。

 故にブラウンは再び背部の光輪――コロナ・シューターを照準、発射。再び射出された五本の光芒が、孤を描きながら赫龍を追い縋る。

「――」

 遮蔽したフェイスシールドの奥、巌に表情は無い。ただ推力偏向による瞬間的な加速と減速、それからバレルロールを駆使して赫龍は全ての光芒を避けてしまう。目の覚めるような回避運動だ。

 更に巌はそれと並行して、雷蔵らいぞうへの通信も試みていた。が、返答は未だにない。反応が消えた訳でも無いので、十中八九タガが外れてしまっているのだろう。

「ファントム1!? どうしてこちらに!?」

 逆に通信してきたのは、意外にもファントム6ことマリアである。センサーでこちらを感知したか。

 こちらもセンサーを走らせれば、反応が返ってくるのは迅月と四号機のみ。その四号機も武装を全損しており、相当激しい戦闘だった事を伺わせた。

「野暮用だ、キミはそのままでいい。状況のデータは今送る」

 指示しつつ、巌は少しばかり目を細めた。自分の声が、思っていた以上に平坦だったためだ。

 それだけ動揺しているワケか。図星を突かれた為に。

「ふん」

 鼻をならし、巌はマリアとの通信を切断。操縦桿を倒しつつモニタを見やれば、今し方回避したコロナ・シューターの光芒が、こちら目がけて急旋回しているのが見えた。相変わらず呆れる程高い追尾性能である。

 かくて光芒は赫龍ターゲットを再補足したのだが――もしこの時光芒に意思があったなら、赫龍のパイロットの正気を疑った事だろう。

 何せ赫龍はビーストモードのまま、レイト・ライト本社目がけて、ほとんど墜落するような角度で急降下していたのだから。



「ぐ、る、るゥ」

 ゆっくりと。『虎』はその身を起こした。

 臭う。霊力の熱が。

 感じる。鋼の弾ける気配を。

「ファントム1!? どうしてこちらに!?」

 そして聞こえた。すぐ傍から、血相を変える誰かの声が。

 それは闘争の証左だ。どこかで、誰かが、戦っているのだ。

「なんの、ために」

 ごく当然の疑問符は、しかしつぶやいたそばから『虎』の脳裏からこぼれ落ちていく。

 理由なぞどうでもいい。ただ思うまま、本能の叫ぶまま、この牙と爪を振えばいいのだ。

 ゆっくりと『虎』が、迅月が身を起こす。その動きを、ディスカバリーⅢ四号機のセンサーは捉えた。

「あっ、起きましたねファントム3! 今、大変な事になってまして――」

 赫龍から送られた、Eフィールド上での戦闘記録。それを転写術式で理解したマリアは、大急ぎで迅月へと向き直る。

 そして、マリアは見てしまった。ぎしりと、凶暴な笑いを浮かべる『虎』の、迅月の姿を。

 過剰な闘争の昂ぶりによって、禍憑まがつきとしてのタガが外れかかっている、ファントム2の姿を。

 ――個人によって差こそあれど、そもそも禍憑きは精神が不安定な存在だ。深層心理の更に奥、精神の根底たる霊泉領域れいせんりょういき異物まがつを飼っている以上、仕方の無い事ではあるのだが。

 なので必然、あらゆる霊力組織は禍憑きの暴走対策を幾つも設定している。

 その中で最も用いられている対策の一つに、「常に武具を用いて戦闘をすべし」という項目がある。

 常人ならごく当然の事だろう。だが禍憑き、特に獣型の禍に憑依されている場合、それが当て嵌まらない事が多々ある。肉体の変異によって強化された四肢が、下手な武器や術式の威力を上回ってしまう為だ。

 実際膂力を存分に活かせる都合上、雷蔵は盾よりも素手で戦った方が強かったりするのだが――その戦い方を続けると、獣の野性がヒトの理性を塗り潰してしまう。

 故にそれを防ぐため、盾という武具でもって雷蔵は理性を守っていた訳だ。

 しかして困った事に、今回はそれを飛び越える例外が用意されていた。迅月のビーストモードである。

 ファントム2の獣性を限定的に引き出し、戦闘力の向上を図る。そのテストのため、迅月は虎型への変形機構を備えていたのだ。

 無論暴走現象は設計者の利英りえいも想定しており、その為のリミッターを搭載する予定もあった。

 だがそれはあくまで模擬戦後の調整作業の話であり、その模擬戦はスイカ割りから始まったいざこざでこんな状況になってしまった。

 万一の沈静術式はコンソールに登録してあるがけどネ、ビーストモードでの長時間戦闘は止したが身のためだゼよ――迅月の出撃間際、雷蔵は利英からそう釘を刺された。

 けれども戦況は芳しくなく、雷蔵はビーストモードでの最大攻撃発動を決断した。

 だからあの時、マリアは雷蔵から送られたのだ。万一の為の沈静術式と、儂が完全に『虎』へならんよう祈っといてくれ、という言葉を。

 その術式を使うため、紅茶の霊力補給までしていたというのに。

「展開が、間に合わない――!」

 そんなマリアの迂闊を笑うように、迅月が一歩踏み出す。

「、う」

 マリアの喉から、恐れが漏れ出る。

 そして、その直後だ。

 迅月の聴覚を、甲高い風切り音が突き刺したのは。

 戦闘機にも似た、明らかに音速を超えた大音量。どうやら向こうの方が活きが良さそうだ、こんな雑魚はいつでも食えるだろう――迅月は四号機に背を向け、レイト・ライト本社ビルをすり抜けて、空を見上げる。闘争本能の赴くままに、音の正体を確認する。

「が、ア?」

 しかしてその旺盛な本能も、眼前の光景には流石に絶句した。

 上空数十メートル。戦闘機じみたシルエットを投げかけて来るのは凪守なぎもりの赤い大鎧装、赫龍だ。そして、それだけなら良かったのだ。

 問題は、その後ろを追尾して来ている五本の光芒である。

 コロナ・シューター。迅月はまだその名を知らないが、それでも尋常でない威力だけは、本能で察して身構えた。

 そんな迅月の頭上数メートルの位置を、赫龍は通り過ぎる。迅月は敢えてそれを見逃す。明らかに光芒の方が危険だからだ。

「ガ、あ、あァ!」

 迅月の爪と牙が唸る。嵐の如く振われる連続斬撃が、激突しかかった光芒の内、三つを斬り裂いた。

 更に反転しかけた四つ目と五つ目を、上空から降り注ぐ霊力弾の雨が破砕する。再変形した赫龍が、右脚部の霊力機関砲を発射したのだ。

 そのまま赫龍はスラスターを噴射し、地表近くまで降下。ホバリングしつつ、正面の迅月を素早くスキャン。

 しかしてそれが終わるより先に、迅月が行動で答えを出した。

「オ、マ、エ、があア!!」

 漲る闘争心まま、光芒による先制をしかけた獲物――赫龍へ跳びかかる迅月。それと同時にスキャン結果を映し出す立体映像モニタを、巌は横目で見やる。

「ふむ、まだ酔いは軽いな」

 眼前へ躍りかかる、強靱な迅月の顎。呆れるくらいに工夫が無いその突撃を、赫龍は僅かにスラスターを噴かして避わす。

「だがそろそろ、起きろよ!」

 そしてまだ残っていた左脚部の霊力機関砲の球体を、すれ違いざま迅月の鼻先へ叩きつけた。

「ぎょばん!?」

 奇声を上げながらひっくり返る迅月。そのまま数秒ほど痙攣していたが、すぐさまヒューマノイドモードへ変形しながら立ち上がる。

「あぁーっぁ! いきなりナニすんじゃファントム1!」

「よし、戻ったようだな」

 頷きつつ、巌は思考を巡らす。ファントム2の、西脇雷蔵の暴走は二年前にもあった。あの時もこうして強引に沈静術式を叩き込み、雷蔵を助け出したものだ。

 このような禍憑きの暴走を止める方法は、凪守隊員の基礎知識として誰もが知っている。

 そして辰巳たつみならば、それらを参照して風葉を救い出せるだろう。

 救い出せる筈だ。以前日乃栄高校で、フェンリルとなった鹿島田かしまだ いずみを助けた時のように。

「……そうでなけりゃ、困るんだよ」

「なんじゃって?」

「……客が来た、と言ったのさ」

「どこに?」

「そこに」

「どれどれ」

 見上げる迅月。まだ少し霊力光を燻らせているそのカメラアイは、遅れてやって来た金色の神影鎧装――アメン・シャドーの姿を捉えた。

「やァーっと追いついたぜェ!」

 追跡時の加速をそのままに、アメン・シャドーは二機の大鎧装目がけて突っ込んでくる。

「それで、どォするつもりなんだァ!?」

 そしてその加速が存分に乗った鎌を、横薙ぎに振り抜いた。

 びょう。幻燈結界がなければレイト・ライト本社すら切断していたろう巨大な斬撃を、赫龍と迅月はそれぞれ左右へ跳躍回避。

 間一髪で死線を潜った雷蔵は、この時ようやくアメン・シャドーを見た。

「うおお何じゃコイツは!? 敵か! 敵じゃな!!」

 理由も状況も分からぬ雷蔵だったが、それでもアメン・シャドーの発する敵意だけは敏感に嗅ぎ取った。故にすぐさまブーストして間合いを詰め、盾による打撃を仕掛けたのだ。

「なんじゃか、知らんが、初めましてぇ!」

「うおッ!?」

 砲弾じみた迅月の一撃に、さしものアメン・シャドーも一瞬驚いた。あまつさえ鎌を振り抜いた直後のため防御もままならず、盾は顔面に直撃する――と、巌は思っていた。

「ッとォ! 危ねエなオイ!」

 しかして、実際は違った。またもやあのスラスターを用いない高速スライド移動で、アメン・シャドーはまっすぐに後退したのだ。

「ぬぅ!? 何と面妖な動きを!」

 驚く雷蔵へ、反撃を見舞わんとするアメン・シャドー。高く振りかぶられたその鎌へ、赫龍は今度こそ腕部グレネードを叩き込んで妨害。

「ク、ソ! ウゼェぞコラァ!」

 罵声を飛ばすブラウン。だが肝心の巌は臆面も無くそれを聞き流していた。

 そして、考えていた。

「なぜアメン・シャドーは、赫龍を追う時今の動きを使わなかった……?」

 しかもあの動きをするのは、決まって回避をする時だけだ。

「ルぅオオオッ!」

 今もそうだ。嵐じみた迅月の連撃が致命打となる、その直前のみでアメン・シャドーは件のスライドを見せるのだ。思い返せば、レツオウガとの連携中もそうだった。

 だが、それは何故だ?

 まず考え得るのは、霊力の消耗が激しすぎる為だろう。

 だが、たかが緊急回避にそこまでの高コストは考えにくい。ならば発動条件が揃わなかったから、と見るべきか。

 しかして、だとしたら、その条件は一体何か。

「何か、何か手がかりは……む?」

 射撃で迅月の攻撃を援護しつつ情報を解析していた巌は、程なくして気付いた。

 時速、約一七○○キロメートル。アメン・シャドーがスライド移動の際叩き出すその数字に、巌は見覚えがあった。

 而して、すぐさまその正体を見抜いた。

「成程、太陽神としての属性をそう使うか。なればこそ――ファントム2!」

「なんじゃい! 今立て込んどるんじゃがの!」

 鎌、盾。鎌、盾。鎌、盾。容赦なくぶつかり合う撃力にも負けない大声で、雷蔵は叫び返す。

「アレをやるぞ! このままじゃラチが明かない!」

 盾。幾度目かになる鎌を受け止めた迅月のコクピットで、雷蔵は凶暴に笑った。

「まーたぶっつけ本番かい。じゃが、それしか無さそうじゃの!」

 鍔迫り合いの状況から一瞬姿勢を崩し、迅月はアメン・シャドーから跳び離れる。更にスラスターを噴射して上昇、赫龍と背中合わせに並び飛ぶ。

「なンだァ……?」

 訝しみ、見上げるブラウン。その正面で陽光を背にしながら、巌は叫んだ。

「行くぞ、ファントム2――獣装合体じゅうそうがったい!」

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