Chapter09 楽園 12

「なんだ、これは」

 オウガに鉄拳を構えさせながら、辰巳たつみは辺りを見回す。ひたすらに殺風景だったEフィールドの様相は、完全に一変していた。

 フィールド全てを覆い尽くす焼けた砂。容赦なく水分を奪おうと吹き付ける熱風。だが何より目を引くのは、Eフィールド中央へ堂々と鎮座する巨大な石積みの四角垂――ピラミッドだろう。

 この光景は、まるで。

「エジプト、だな。はは、なんだこのデタラメは」

 呟くメイ。モニタ越しに外を見る双眸に、先程までの不機嫌は見当たらない。むしろわくわくしてすらいる。

 ほんの少し、辰巳は片眉を吊り上げた。

「けど、何でエジプトなんだ?」

『さぁな。単に、術者の趣味なのか……』

 冥はモニタを見る。ズームするピラミッドのてっぺん、ご丁寧にパラソルで日よけされた椅子の上。この偽エジプトを展開したと思しき術者、ハワード・ブラウンが座っていた。

 更にその傍らには、先程取り出された怪しいチェス盤が、台座ごと鎮座しても居た。

『……それとも、当人が術式に深く関係しているのか』

 どっちにせよ、聞いて見れば分かる事だ。そう思い立った冥は、おもむろに紫色の転移術式――ヘルズゲート・エミュレータを起動。

『と言うわけでちょいと聞いてくるよ。セット、ゲート』

『Roger HellGate Emulator Ready』

「え? ちょっ、ファントム3?」

 などと辰巳が止める間も無く、冥は飄々と転移術式を潜って行ってしまった。散歩するような気軽さだ。

「実際、当人からすりゃ散歩みたいなもんか……自由な事だ」

 かつかつ、とヘッドギアのコメカミ部を小突く辰巳。

『おう、無事だったなファントム4』

 背後からいわおの声がかかったのは、そんな折だった。

 振り返った視界に映ったのは、赤い龍型の大鎧装、赫龍かくりゅう。スラスターから霊力光をなびかせる赫龍は、オウガの頭上で小さく旋回しつつ、人型に変形して着地。

 それとほぼ同じタイミングで、濃緑色の大鎧装四機がEフィールドへと跳躍侵入してきた。自衛隊凪守出向部所属の大鎧装、零壱式れいいちしきの部隊だ。

 その内の一機、頭部へアンテナを増設された指揮官機がオウガを見た。

『ファントム4! ご無事ですか!?』

 立体映像モニタが点灯し、指揮官機パイロットの田中三尉が映り出す。

「ええ、大丈夫です。ご心配をおかけしました」

『ならば良いのですが……おや? ファントム3の姿が見えませんね』

「ああ、少し野暮用が出来たみたいで」

『野暮用?』

 眉をひそめる三尉。だがその疑問に答える間も無く、外部から通信が割り込んで来る。

『よしよし、役者は揃ったようだな』

 点灯する立体映像モニタ。映り込むのは相変わらず腰掛けているブラウンと、その隣でタブレットを操作しているファントム3――冥・ローウェルであった。



 Eフィールド中央。辺り一帯をぐるりと望む、ピラミッドのてっぺん。

「まるでこの状況を待っていたような口振りだな、ハワード・ブラウン」

 チェス板の乗る台座を挟んだ反対側で、冥はブラウンを見やった。因みにブラウン同様、冥もきちんと椅子に腰掛けている。転移した矢先、ブラウンから勧められたのだ。

「そりゃそォさ。ようやく本筋の仕事に取りかかれるンだからなァ」

「ふむ? つまりキミにとって、先程ファントム4の相手をしたのは、本意で無かった訳か」

「……あァ。師弟揃ってメンドーな連中だなオマエら」

 かん、かん。台座を小突くブラウン。すると台座の一角へ正方形の切れ込みが走り、音も無く沈み込んだ。

 そして、きっかり五秒後に戻って来た。その上にパック入りの桜餅を載せながら。

「何!? こ、の、パッケージは……まさか!?」

「そォ、察しの通りやまと屋の桜餅よ。事情とかウザさとか抜きにしても、こンなトコまでいらっしゃッたお客サマは、きちんともてなさねェとなァ」

 言いつつ、ブラウンは台座にへ乗っていたもう一つの物品、チェスピースを手に取った。

 兵士ポーン。金色に光るその駒に、冥は片眉を吊り上げる。桜餅を手に取りながら。

「……僕とチェスの勝負がしたい、という訳では無さそうだな?」

「そらそォさ。ご覧の通り、一種類につき一個しか駒が無ェし」

「ふむ。ならどうするんだ」

「こオするのさァ」

 無造作に、ブラウンは盤の端へ駒を置いた。チェスのルールをまるきり無視した配置に、しかしチェス板は律儀に答えた。

 ぱりり。小さな火花を上げながら、霊力光が駒に走る。渦を巻く霊力光はそのままチェス盤へと伝達し、ぐるぐると拡大。

 渦はボードの枠を飛び出し、台座へと伝わる。ピラミッドの段差を走り抜け、オウガ達が居る方向へと拡散。

 その二秒後、砂を突き破りながら巨大な影が姿を現した。

『何ぃ!?』

 数は六。Eフィールド端のオウガ達を取り囲むように現われた異形共に、冥は目を細めた。

「あれは、恐竜……ティラノサウルス型のまがつ、か?」

「ご明察。ディノファング、って名前でなァ。中々に良い買い物だったぜェ」 

 鉈じみた爪を備える巨大な脚。スラスターを内蔵する長大な尻尾。そして、ひたすらに暴力的な牙の並ぶ顎。

 その名に恥じぬ凶暴さを隠そうともしない恐竜型禍、ディノファング。だが冥が片眉を吊り上げたのは、そんな解りやすい脅威に対してではない。

「ほぉ? 意外だな、自分で造ったんじゃないのか」

「いンや、術式自体を造ったのは俺さ。それを封入する道具を、オマケ共々買い込ンだのさ」

 言いつつ、ブラウンは金色の駒を小突いた。他にもサトウと交わした密約等はあるのだが、無論そんな事まで説明する義理はない。ただニヤついた笑みを深めながら、禍――ディノファングへ指示を出す。

「さァて、性能を見せて貰おォか!」

 ぱきん、と打ち鳴らされるブラウンの指。それを合図に、ディノファング達は動いた。

『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!』

 砂塵を撒き散らし、巨大な顎を剥き出しに、オウガ達大鎧装部隊へと迫るディノファングの群れ。

 その巨大な顎の一撃を受ければ、いかな大鎧装であれ腕の一本や二本、容易く食い千切られてしまうだろう。

 故に、大鎧装部隊は先手を取った。

「おっ」と冥が感心する程の素早さで、左右両端に居た零壱式の三番機と四番機、そしてオウガが前に出た。

 次いで三、四番機は中腰体勢を取りつつ、バックパックに畳まれていた二本のサブアームを展開。更に先端に装着されていた巨大なシールドが、下部のパイルバンカーを砂に突き刺して固定した。

『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!?』

 簡易バリケードの如く展開した四枚のシールドに、突撃を阻まれる四匹のディノファング。因みに残りの二匹は、オウガの展開した二本のブレードによって、上顎を縫い止められていた。

 恐竜型禍の巨大質量を受け止めたシールドは多少へこみ、砂を穿つ杭もいくらか後ろに下がっている。だが、防御態勢そのものに揺らぎは無い。

『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!!』

 それでもその防御を突破すべく、ディノファング達は尻尾のスラスターを起動。横に割れた尻尾の中央、ロケットエンジンじみた噴射口に霊力光が灯り。

 しかしその噴出に先んじて、残りの零壱式一番機と二番機、更に赫龍がバリケードごとディノファングを跳び越えた。

 一番機はアサルトライフル、二番機もアサルトライフル、赫龍は上腕部内蔵のグレネード。三機の大鎧装はそれぞれの射撃武器を、真下に並んでいる巨大トカゲ共へと照準。

 発砲。発砲。発射。

 焼けた砂よりなお熱い弾丸が、ディノファングの装甲へと着弾、着弾、着弾。そして爆発。

『GYAAAAAOOOOOOOOO……』

 力無い断末魔を残し、消滅していくディノファング。それに伴う霊力光を背に受けながら、三機の大鎧装は着地した。三番機と四番機もシールドをしまった。

「……なンだァ、あの装備は」

 目を細めるブラウンだが、まぁ無理もない。今し方三、四番機が展開した大型シールドは、アームと連動したバックパックも含めて、凪守の基本装備には無い代物だったからだ。

 そんなブラウンを横目に、冥は遠慮無く桜餅を頬張る。

「ふふん、まぁ知らんのも無理はないさ。何せあの盾は、ウチのヒラメキ坊主が開発に関わった試作品の一つだからな」

 正式名称、パイル・シールド。ファントム2のブレイク・シールドをヒントに、より使いやすいよう開発された防御用装備だ。もっとも本家ブレイク・シールドと違って、表面に攻撃術式を精製する能力は無いのだが。

「あァ、模擬戦で使う予定だった試作装備をそのまま使ってるワケか。外すヒマも無かったろォからなァ」

「ま、平たく言えばそうなるな」

 肩をすくめる冥。その正面で、ブラウンはまたもや駒を掴む。

「なら、こっちとしても出し惜しむ理由は無ェワケだ」

 騎士ナイトルーク。二つの駒を、ブラウンはそれぞれチェス板の左右端へと配置。二つの駒から新たな霊力光が走り、拡大し、Eフィールドへと走り抜ける。

『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!』

 するとその二秒後、新たなディノファング達が砂塵を突き破って現われたではないか。

 その数、実に十二匹。先程の倍もある数もさる事ながら、その武装が冥の目を引いた。

「おや、装備が違うね」

「そりゃそォさ。駒が変われば性能も変わるッてモンよ」

 ブラウンが鼻をならした通り、新たなディノファングには追加武装が施されていた。

 本来のティラノサウルスの腕へ該当する部位に、三本刃の大型クローアームを増設されたディノファング・ナイト。同様の位置に、三連装キャノン砲を装着されたディノファング・ルーク。

『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!!』

 各々の装備に則り、前衛と後衛に分かれて陣形を組むディノファング部隊。前衛となるナイト型六体が爪を振りかざしながら突撃し、ルーク型六体が背後からキャノン砲による援護射撃を行う。

 放物線を描いて着弾する炸裂弾、炸裂弾、炸裂弾。凪守大鎧装部隊の脚が止まる。その隙に肉薄する三本刃が、六機の大鎧装を八つ裂きにする。そういう戦術を立てていたのだろう。

「素直な押し方だねえ」

 つぶやく冥。無論、そんな教科書通りの押し方なぞ凪守には通用しない。

 オウガ。赫龍。一番機と三番機。二番機と四番機という四組に、大鎧装部隊は分散。更に散開。

 目標を見失い、虚しく弾ける炸裂弾の雨。その飛沫と敵の散開によってルークは照準に一瞬迷い、ナイトは突撃相手を見定めるべく一瞬止まる。

「そして、その一瞬が命取りだ」

 明後日の方向へ走っていたオウガが、ラピッドブースターを発動して急転換。四番機の方へ気を取られていたナイトの横顔へ、鋼鉄の膝蹴りを叩き込んだ。

『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!?』

 苦悶するナイトだが、オウガは微塵も構う事無くパイルバンカーを発動。膝部Eマテリアルから射出される霊力の杭が、ナイトの脳天を容易く貫通。その凄まじい撃力は、ナイトの巨体をも軽く浮かせる程だ。

『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!!』

そんなオウガを狙い、ルークの一匹がキャノン砲を照準。だがその砲口が吼える直前、飛来したミサイルがキャノン砲をルークの息の根ごと黙らせた。炸裂が砂塵をまき散らし、更に一拍遅れてブラウンの髪を揺らす。

「なンだァ……?」

 目を細めるブラウン。霊力光の方向から鑑みて、発射したのは零壱式二番機だろう。だが妙な事に、二番機が構えているのは巨大な片刃剣だった。

 それまで背中に装着していたその刃を、二番機は構え直す。刃の峰には何故かショットガンの先台に似たパーツが装着されており、二番機はこれをポンプする。

 がしゅん。そんな音と蒸気を排出しながら先台が往復すると、スライドしたレール上に青色の霊力光が塗布されたではないか。

「あれは、そォか、レックウの塗布式ミサイルランチャーか」

 ブラウンの看破を肯定するように、二番機は巨大な片刃剣――バスター・ザッパーをまっすぐに突き出す。直後、刃の峰へ引かれた青い光の線から、霊力の三角錐が飛び出した。見紛うはずも無い、レックウの後輪へ搭載されている物と同様の術式だ。

 その数、八本。くるくると回転していたのも束の間、八つの三角錐はディノファングの群れへと殺到。しかしディノファング達はすぐさま散開し、三角錐は一発たりとも当たらない。

 だが、それで良いのだ。待機していた三番機と四番機の前へおびき出せたのだから。

「あッ」とブラウンが言うより先に、パイル・シールドに装着されたパイルバンカーがディノファングを貫通。断末魔を上げる間も無く、二匹の恐竜が霊力光へ還っていく。 

「ほォーう。思った以上にやるなァ」

 片眉を吊り上げるブラウンだが、口端には余裕が微笑の形で張り付いている。

「ふむ」

 その態度に、冥は疑問を覚えた。桜餅を囓る手を止め、改めて戦場を見回す。

 戦況は概ね、と言うよりほとんど凪守側へ有利に傾いていた。

 零壱式一番機がバックパックから一対のキャノン砲を展開し、砲撃。

 零壱式二番機がバスター・ザッパーを振りかぶり、真っ向から両断。

 零壱式三番機がパイル・シールドで殴りかかり、敵の動きを止める。

 零壱式四番機がその隙にアサルトライフルを構え、銃撃を浴びせる。まったくもって順調な戦い振りだ。

「……妙な違和感を覚えるくらいに、ね」

 凪守部隊は前進する。ブラウンが駒を小突く度、律儀に現われるディノファング共を蹴散らしながら。Eフィールド中心にあるピラミッドへ向かって、一心不乱に。

 ふと、冥は疑問を覚えた。なぜここに向かっているのか。

 決まっている。ここ以外、怪しい場所が見当たらないからだ。辺りは起伏に乏しい砂漠であり、てっぺんには術者ハワード・ブラウンの分霊が陣取っている。成程分かりやすいターゲットだ。何せ冥ですら興味を引かれたのだから。

「だが……」

 こんな大規模なEフィールドを構築したり、転移術式でファントム4をさらうような計画を立てる術者が、詰めの段階でこんな劣勢を良しとするだろうか。

 そんなはずは無い。だが、だとしたら向こうの狙いは一体何なのか。

「……あ、成程」

 方々を見回した冥は、やがてブラウンの目論見に気付いた。同時に、妙な違和感の正体も理解した。

 この戦場は静かすぎるのだ。本島で樺っているだろうファントム2のタイガーなんちゃらが、まったく聞こえて来ないくらいに。

『ファントム3! モーリシャス本島へ連絡を取ってくれ!』

「ああ、丁度僕も同じ事を考えていたよファントム1」

 丁度同じタイミングで気付いたらしい巌の通信に頷きながら、冥はファントム2への通信を試みる。が、返って来たのは耳障りなノイズのみ。グロリアス・グローリィによる通信妨害だろう。それだけなら特に不思議な事ではない。

 だが、ならば。

 何故モーリシャス本島に展開しているだろう迅月じんげつや、ディスカバリーⅢ部隊の姿が見当たらないのか。

「Eフィールド全体を覆う霊力の壁を密かに構築し、その内側に過去の風景映像を貼り付けていた、か……セット、ゲート」

 ヘルズゲート・エミュレータを起動しながら、冥は考える。

 壁が展開したタイミングは、恐らく最初にポーンを置いた後。恐竜型の新顔へ注意が向いている内に、ブラウンは仕事をしたのだろう。

 見切ってしまえば単純なカラクリだ。だがその単純さに、結局全員が騙されてしまった訳で。

「実に有効な一手だ。そんな笑顔が浮かぶのも当然だな」

「だろォ?」

 にやり、と笑みを深めるブラウン。ヘルズゲート・エミュレータ越しに外を見た冥は、ブラウンの余裕の意味が良く分かった。

『だが、今なら、まだッ!』

 叫ぶ巌。そう、今ならまだ挽回出来る。その為の武器を赫龍は持っており、その為の照準を冥は付ける事が出来る。

『セット! モード・ワン!』

『Roger Crimson Canon Ready』

 砂漠で行われている激闘を無視し、各週はクリムゾンキャノンを集束モードで展開。急速充填される砲口の正面に、紫色の転移術式が灯る。冥が展開したヘルズゲート・エミュレータだ。

 だがそのチャージを阻むべく、ルークが咆吼と砲口を上げる。

『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!!』

「今立て込んでんだよ、黙ってろ!」

 赫龍を捉えかけたルークの照準を、割り込んだオウガがパイルバンカーで黙らせる。同時にサムズアップを掲げる辺り、辰巳もまたブラウンの狙いに気付いているようだ。

『いいアシストだ……!』

 頷く巌の真正面、赫龍のディスプレイにEフィールド外の光景が映り出す。冥が転移術式を用いて、リアルタイム転送しているのだ。

『タイガァァァァッ! 全力疾走ブレェェェェェェイクゥ!』

 奮闘する迅月。舞い踊るライグランス。応戦するディスカバリーⅢ。だがそれ以上に目を引くのは、レイト・ライト社ビルの上を悠々と飛んでいる、黒く巨大な戦艦の姿だ。

 十中八九、あれこそがグロリアス・グローリィの新たな拠点。Eフィールドという巨大な囮に注意を引きつけ、戦力を分断させ、その隙に逃げる算段だった訳か。

 船体後部に並ぶスラスター群には、今この瞬間にもはち切れそうな霊力の白光、白光、白光が燃え盛っている。オーバーブーストで一気に離脱するつもりか。

 あと十数秒もせぬ内に、黒い戦艦は加速するだろう。そうなればもう追い付けまい。

 だが、その十数秒があれば十分だ。

 今まさに極限まで霊力を燃やしているスラスター部。そこへクリムゾンキャノンを叩き込めば。

『沈める事は、可能な筈だっ!』

 目標照準、完了。霊力充填、完了。後は引金を引くのみ。

 しかして、その直前。巌の直感が、大きな警報を鳴らした。

 照準したスラスターの斜め上、甲板の端。寝そべるような体勢で、長大なライフルを構えている少女が一人。

「な、に」

 酷く小柄だが、それはどうでもいい。鎧装を着込んでもいるが、それもどうでもいい。

 巌を絶句させたのは、少女――ペネロペが構えているライフルに、見覚えがあったからだ。

「グレイブメイカー……対竜鱗徹甲弾か!?」

 対竜鱗徹甲弾。その名の通りドラゴンの鱗すら貫く特殊弾丸と、それを苦も無く運用出来る高性能大型ライフル、グレイブメイカー。

 十中八九壁の除外処理を受けているだろうその引金を、ペネロペは引き絞った。

 照準は、赫龍を捉えていた。

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