『セーカ』

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サルガタナス(Sargatanas)とは、悪魔学における魔神の一柱。

『真正奥義書』を始めとする、いくつかのグリモワール(grimoire:中~近世の西洋で流行した一連の魔術書)においてその名前を認めることができる。


ルシファー・ベルゼブブ・アスタロトをデーモンの三大有力者と定義するグリモアにおいて、その直属である六大悪魔の一柱として数えられており、数多の悪霊の旅団を指揮する地獄の准将だという。


アスタロトの直属の配下であり、また自身の配下としてレライエ、モラクス、ヴァレフールを従えている。

独自の能力として、人(召喚者)を透明にしたり、あらゆる場所に移動させたり、家中で起こっている出来事を見せたり、あらゆる鍵を開ける力を持つとされる。


容貌・外見に関する伝承は特に伝わっていない。


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―――『総毛立つ』とは、まさしくこういう心境のことだろうか。


『・・・ヒッ、ヒヒヒヒヒッ。

 ・・・・・・サルガタナスめ、さんざん勿体つけおってぇ・・・』


なんともミもフタもない破られ方をしてしまったもんだ。

理も論も、過程もあったもんじゃない。


《術から抜け出させてやっただけ、ありがたいと思うのだな。

 そもそも、此度こたびの件は聖下の勅命というわけではないのだ。

 ・・・故に、私の独断で汝を見捨てることだってできたのだぞ》


なにせこのサルガタナス、タケミカヅチたちの結界を『破れるから破った』のだ。

一ヶ月前の俺たちみたいに、結界の原理を理解するためにさんざっぱら屁理屈をこね回したわけでも、ましていちいち結界の動力源を突き止めて破壊したわけでもない。


『破れるから』『破った』のだ。

破れること自体に、理由なんてない。

『そういうものだから』『破れた』のだ。


『心得ておるわ。

 ・・・後はわしに任せてもらおうか』


まるで、人の限界をあざ笑うかのように。

いや、人間にとっての神や悪魔という存在は、まさしくそういうものなのかも知れない。


《ふん。

 ・・・まあ、私は人の子に蛮武を振るうつもりはないゆえ、それに関しては汝に一任するがな》

『ヒヒヒ。有難い。

 ・・・ヒヒヒ。アリガタイ。

 ・・・・・・ひひひ。ありがたい』


異形の三頭のうち、中央の髭面ひげづら頭が不愉快な声で笑うと

両脇の猫頭と蛇頭もそれに追随し、およそ獣や爬虫類とは思えない声で嘲り笑った。




―――そう。

つまり、今俺たちの目の前にはアインがいる。




・・・いや、おそらくはサルガタナスもいるのだろうが・・・とにかく、タケミカヅチの異次元結界によって生じた平行世界の向こう側などではなく、俺や美佳がいるのと同じ空間、同じ領域に、あのおぞましい悪魔どもがいる。


「・・・・・・・・・・・・」


一瞬の出来事だった。

サルガタナスの『無駄話』が終わるのとほぼ同時に、俺と美佳の眼前に忽然とアインがその異形を現したのだ。


視覚的にはテレポートとか瞬間移動としか形容できない現象だったが、つまりはこれがサルガタナスの能力なんだろう。

本人の自己紹介にあったように、サルガタナスは結界と結界を遮る平行世界の扉の鍵をこじ開け、俺たちが逃げ込んでいた『こちら側』の次元へと強引に転移してきたのだ。

現象として抽象的すぎて雲を掴むような話だったが、現に今こうしてアインが俺たちの眼前に立っているのだから、その事実を受け入れるしかない。


『―――小僧。

 よくもこのアインに、ここまで恥を掻かせてくれたものだな。

 ・・・覚悟はできておろうなぁ?』

《・・・・・・》


・・・もうアインの身体には、ただの一片たりとて肉片はこびりついていなかった。

おそらくサルガタナスがアインの肉体のみをこちら側に転移させてきたため、付着していたヒル人間の肉片はまるまる元いた次元に置いてけぼりにされてしまったのだろう。


だがアインの肉体は、そのところどころが火傷を負ったかのようにただれ、膿み傷のようにめくれ上がっている。

それがエーテル抜きのダメージによるものであることは明白だった。

俺の時とは違って出血こそしていないようだったが、その見た目通りに受け取るならば決して少なくないダメージのはずだ。


「・・・くっ!」


・・・だが。

例えそれによってある程度消耗させていたとしても、元々の地力の差が絶望的なのだ。

追い詰められているのは、言うまでもなくこちらの方だろう。


「さっちゃん・・・」


と。

俺がじりじりと後ずさりながら、己の決断力のなさを悔やみ始めていた、その時。


《・・・・・・少年。

 まあ、まずありえないだろうが・・・》

「・・・。

 ・・・・・・え?」

《・・・もし、そのアインを汝らの手だけで退けることができたならば・・・。

 他の同胞たちがしばらく加賀瀬美佳に手出しできなくなるよう、御聖座ごせいざに口利きしてやってもよいぞ》

「!!」

『なっ!?』


そこで唐突に、・・・・・・いや、ほんとに唐突に、サルガタナスが思いもよらぬ言葉を発してきた。


『サルガタナス、貴様!何を言っておるかッ!!

 ・・・血迷ったのかっ!?』


・・・・・・一瞬、俺はこの姿なき悪魔が何を言っているのか理解できなかった。

そりゃそうだろう。なんでこいつが美佳を助けるような提案をしてくるんだ?


つーか、『ゴセーザ』・・・?

ゴセーザ、って、いったい・・・。


「・・・・・・・・・・・・」


ふいっと横に目をやると、美佳は当然ながら俺以上に理解できていないらしく、身構えたままの姿勢できょとんとした顔をしている。


『己が何を言っておるのか分かっておるのかッ!!』

《・・・分かっておらぬのは汝の方だ》


・・・心なしか、サルガタナスの声色は

俺たちに向けられるものよりも、アインに向けられるものの方が冷ややかに聞こえた。


《先ほども申したように、此度の件は聖下の勅令があったわけではない。

 ただ、我らはそうすることがあるべき姿だと信じておるがゆえに、アマツミカボシを大和の神々の手から奪還しようとしているに過ぎぬ》

「・・・・・・?」


・・・やはり、まるで要領を得ない。


《だがそれは裏を返せば、このオーミカ神社や加賀瀬の人間に攻撃を加えることが

 必ずしも聖下の御心に適うわけではないことをも意味する。

 ・・・なあ?アインよ。

 加賀瀬吉造の件では、汝は随分と顰蹙を買ったようだが?》

「!!」

「・・・・・・。

 え・・・・・・?」


・・・思わず、ぎくりとした。

この状況で、唐突に美佳のじいさんの名前を挙げられたことに。


『・・・ぐっ!』

《分かるか、アインよ。

 大義・・・すなわち、聖下の利に繋がらぬ暴挙は、背信行為と変わらぬ》


アインは背後を振り返り、ふたたび虚空――天井の一角を、忌々しげに睨みつけた。


《・・・私はな、むしろ汝の顔を立ててやろうと申しておるのだぞ?

 私の提案が気に食わぬのであれば、己のやり方こそが正義であると、行動で示せばよいだけのことだ。

 汝の行動によって・・・過程はどうあれ、最終的に汝の行動によってミカボシが我らの手に収まれば、汝が正義なのだからな》

『・・・ぬぅぅ・・・』


・・・が、見えざる悪魔はそんなアインの剣幕などまるで意に介していない調子で、淡々と言葉を続ける。


《汝は加賀瀬吉造の件でゴモリーから随分と難癖をつけられたらしいが、汝のやり方で結果を出しさえすれば、ゴモリーとてさすがに口をつぐまざるを得まい。

 ・・・分かるか?

 ゆえに私は、あえて汝のやり方を否定するような提案をするのだ。

 その上で汝が己のやり方こそ正しかったと証明すれば、もう何人なんびとも汝には歯向かうまいよ》

「・・・・・・・・・・・・」



・・・・・・ゴモリー・・・・・・。



《私が直々に提案したことをはねのけて結果を出せば、穏健派を気取っている者どもはもう汝のやり方を否定できなくなるだろうからな。

 ・・・それともアイン、汝はその人間どもに勝つ自信がないとでも言うのか?》

『そんなわけがなかろうがッ!!』


アインは背後の虚空へ、今にも掴み掛からんばかりの剣幕で怒鳴り声を上げる。


「サルガタナス」


と、そこで俺は初めてこの見えざる悪魔の名を、声に出して呼んだ。


「・・・とか言ったか?

 俺にとってお前の話は、ところどころ要領を得ないものだったけれど・・・」

《・・・》

「その上で聞きたい。

 なぜ敵であるお前が、条件つきとはいえ美佳を助けるような提案をしてくるんだ?」

《・・・・・・》


俺は壁に背をつけてじりじりと右に移動しながら、なおも言葉を続ける。


「お前たち悪魔は、タケミカヅチ・・・天津神たちから略奪行為を働くために、この日本に来たんだろう。

 なぜ、その天津神の息がかかった俺たち日本人に、あえて手を差し伸べるような提案をする?」

《・・・汝らはそういう認識なのか》


・・・サルガタナスの声には、なぜか若干、呆れのようなニュアンスが込められているように聞こえた。


《・・・確か、タカクワ・サクと言ったな。

 汝の認識通り、我らがやろうとしていることは・・・おおよそにおいては、この国の神や人にとってありがたくないであろうことだ。

 ・・・が、それはあくまで我らなりの正義があってのこと》

「・・・」


悪魔が『正義』って言葉を連呼するのか・・・。

まあ、今はどうでもいいが。


《汝らの視点では、我らが無軌道に蛮行を働いているようにしか見えぬのであろうが、決してそうではない。

 私個人のことを言えば、確かに・・・そこの加賀瀬美佳を確保するため、天津神の助勢を受けている汝を排除するのが最も手っ取り早いと考えていたし、現に汝らを破滅させようとしているアインの手助けをした。

 ・・・しかし、仮に汝がアインを退けるほどの器量の持ち主だと知れ渡れば、我らにとっての風向きも少しだけ変わる可能性が出てくるのだ》

『そのような有り得ぬ仮定はナンセンスだっ!』


アインはしびれを切らしたかのように吠えたが、サルガタナスはやはり意に介していない調子で言葉を続ける。


《・・・言ってしまえばな、我らがこの国に来たのは『点数稼ぎ』のためだ》

「点数・・・?

 今、自分で正義のためだとか言ってたじゃないか」

《そうだ。

 ・・・我らにも事情がある故、汝に全容を聞かせてやるわけにはいかないが・・・》

『サルガタナス!わきまえろっ!!

 今汝が漏らしていることは、利敵行為に他ならぬわ!!』


と、そこで。

とうとう堪えきれなくなったという威勢で怒鳴り声を上げながら、アインは背後の・・・何もないはずの空間へと歩み寄っていった。


《・・・この少年に情報を漏らすことが利敵行為に当たるか否かは、それこそ汝とこの少年次第だ。

 ・・・・・・が、アイン。

 汝がこの後この少年を殺めれば、私が漏らしたことは無意味になるし

 逆にこの少年が汝に勝てば、我らは武力行使とは別の可能性を模索する必要が出てくる可能性が高い。

 故に利敵行為には当たらぬと判断した》

『詭弁であろうが!友軍が敗れる前提で敵に情報を漏らすたわけがいるかッ!!』

《アインよ》


・・・アインの名を呼ぶサルガタナスの声が、ぴしゃりと響く。


《・・・履き違えるなよ。

 今、汝は私に一つ、決して小さくない借りを作った。

 私個人がいかな戦略に基づいて行動しようが、今の汝にそれを妨害する権利はない》

『何が戦略だ!この敗北主義―――』

《なんなら、この少年が操っていた腐肉の海で待っておってもらってもよいのだがな。

 ・・・戻るか?今一度》

『・・・・・・!!

 ・・・ぐぅぅッっ!』


途端にアインは歩みを止め、足を踏み鳴らすかのようにその場で踏み止まった。


《今しばし大人しくしておれ。

 話が終われば、好きなだけ殺させてやる》

『・・・・・・・・・・・・っ!!』


アインはそこに乗っている三頭ごとその肩をわなわなと震わせ、ただその場に立ち尽くす。


・・・当然と言うべきか、俺の・・・いや、ヒルコの術から抜け出すために転移させられるというとは、そこへ『逆戻り』させることも可能ということなのだろう。


《・・・話を戻そうか、タカクワ》

「・・・・・・」


そこでようやく、サルガタナスがこちらへと向き直る。


・・・いや、姿が見えないんだから

ほんとに向き直ったかどうかなんてもちろん分かりっこないんだが、なんとなくそんな気がした。


《・・・此度こたび、我らがこの国に来たのは、ここ大和の神々との間で永年に渡って保留事項となっている、とある案件を片付けるためだ》

「保留・・・案件?

 ・・・・・・」


・・・サルガタナスのこの口振りからして、おそらくはアマツミカボシ・・・というか、その力が宿る宿魂石しゅくこんせきを巡ってのことなんだろうが・・・。


だが、少なくともタケミカヅチの話を信じる限りでは、この悪魔たちがやっていることは

事情とか案件とか以前に、やはり単なる略奪行為としか思えなかった。


《そうだ。

 だが、その『片付け方』に関するアプローチの仕方が、我らはみな一柱ひとり一柱ひとり異なる。

 ・・・なぜだか分かるか?》

「・・・手柄を独り占めしたいから、って聞いたが」

《それもあるが、そもそも我らは、誰かに厳命されてこの国を訪れたわけではないのだ。

 ・・・故に、軍団として統率立った動きを取る義務はない。

 究極的には聖下の利を確保することが目的である故、大きな意味ではみな志を同じくしておるが、聖下御自身の命によって動いているわけではない以上、協力しあう者もいれば・・・そのアインのように、先走って抜け駆けしようとする者もいる》

『・・・・・・』

「・・・」

《故に我らがやろうとしていることは、正義であり、点数稼ぎでもあるのだ。

 みな、我こそがその『保留案件』に決着をつけるのだと息巻いている》

「・・・・・・」

《・・・だがな、何も強硬策のみが手段ではない。

 仮に・・・強引な手段に頼っていた者に、何かしら重大な過失や失態があれば

 大勢としての我らのやり方も、武力行使とは違ったアプローチが支配的にもなろう》

「・・・つまり、こう言いたいのか?

 『俺たちがアインを倒すことによって、悪魔たちの間に流れる強硬的な気運を挫けば、懐柔策が支配的になるよう、取りなしてやってもいい』と」

《そうだ。

 ・・・話には聞いていたが、なかなか理解が早い》

『よくもぬけぬけと!』

《汝は黙っておれ!》

『・・・・・・ッ!!』


アインは続けざま、何か言葉を放とうとしていたようだったが・・・。

サルガタナスの一喝を受け、それを飲み込んでしまった。


・・・やはり、『逆戻り』が嫌らしい。


《タカクワよ。

 汝がアインを退け、我らの同胞の多くに一目置かせる存在となれば、どうあっても武力で事を成そうとする者は、確実に減る。

 ・・・面倒だからな。

 人の子が神魔を打ち倒したという事実は、汝ら人間が思っているよりも遥かに、政治的に重大な意味を持つのだ。

 故にもしそのような事態が生ずれば、私としても汝を殺めるよりは、汝を懐柔する方向で事を進めた方が都合がよくなる》

「・・・お前は今、俺を殺そうとしているアインの手助けをした。

 俺が仮にアインを倒したとして、そのお前の懐柔なんぞに乗るとでも思うか?」

《乗るな。

 汝は恐らく、天津神々をも信用しておらぬであろう。

 故に、なるべく多方面の後ろ盾『候補』が欲しいと思っている。

 ・・・違うか?》

「・・・」

《汝が欲しいのは、事の趨勢すうせいに通じ、かつ事実のみを教えてくれる後ろ盾だ。

 利用されているか否かは問題ではない。

 故に、敵対行為も協力行為も明け透けに伝える私を『信頼』して、恐らくは頼ってくる》

「・・・・・・」



くそったれ。

その時にならなきゃ分からんが・・・・・・・・・・・・たぶん、図星だ。



《汝のような人間が瀬戸際に立たされた時、欲するのは慈悲や情愛ではない。客観性だ。

 ・・・人間は元来そういう風にはできていないはずだが、稀に汝のような・・・土壇場でこそ冷淡さを発揮する人間がいる。

 まして・・・命の危険に曝されていながら、それでもなお他者のために冷淡になれる人間というのは、極めて稀だ。

 ・・・だが、聖下はそういう人間を好まれる。故に提案した》

「・・・」


・・・よく分からんが。

どうも俺は、俺の与り知らないどこかで、勝手に過大評価されているらしい。


最初にヒル人間と遭遇した時なんか、冷淡どころかただうろたえるばかりで、終止美佳の足を引っ張っていたんだが・・・。


・・・まあ、いいや。

そんな事より、今はこのサルガタナスに問い正さなきゃならないことがある。


「・・・一つ、聞きたいんだが」

《なんだ》

「お前、さっきからしきりに『セーカ』『セーカ』って連呼してるけど、誰・・・つーか、そもそも何だ?『セーカ』って」

《・・・・・・》


サルガタナスは答えない。

が、俺は構わず言葉を続けた。


「お前の口振りからして、どうもお前たちの上司みたいだけど」

《・・・知りたいか》

「知りたいっつーか、お前があまりにも当たり前のようにその『セーカ』とやらを引き合いに出してくるから、気になっただけだ」

《・・・・・・・・・・・・》


サルガタナスはふたたび沈黙した。


・・・だが。


《・・・この世で、神の次に影響力のあるお方だ》

「・・・は?

 ・・・・・・『カミ』?」


・・・いきなり何を言い出すんだ、こいつ。


「神・・・って、タケミカヅチとかヒルコのことか?」

《そうではない。

 あれらは我らに言わせると、神であって神ではない。

 我らと、本質的な違いはないからな。

 ただ現代において、『日なた』に立っているか『日陰』に立っているかの違いに過ぎぬ》

「・・・はあぁ・・・!?」


素っ頓狂な声で聞き返した直後、俺は今のサルガタナスの言葉にかすかな既視感を覚えていた。


・・・そうだ。

一昨日、電話で西宮先生も言っていた。

彼らはちょっとした切り口の違いで悪魔と認識されているだけであって、ヒルコたちと本質的な違いはないんじゃないか、と。


・・・だが、ならば、今サルガタナスが言った『神』っていうのは・・・。


《そもそも、神と呼ばれるものは本来、ただ一神ひとりしからぬ。

 ・・・人の子にとって、我らが人智を超えた存在であるように、我らにとってもまた、『それ』は及びもつかぬ存在だ。

 ・・・・・・だが、かつて『それ』に肉薄した方がおられた》

「・・・・・・・・・・・・」

《それが、我らが聖下とお呼びする方だ。

 ・・・あえて御名みなは教えぬが、恐らくは汝も一度くらいはその名を耳にしたことがあるはず》


・・・眉唾ものの話はともかく、つまり、『セーカ』ってのは尊称だかなんだかで、個人名じゃないってことか。

閣下とか陛下とかと同じようなもんだろうか。


《私が明かさずとも、いずれ嫌でも知ることになろう。

 もっとも・・・》

「!!」


刹那。

サルガタナスの言葉にすっかり気を取られていた俺の視界の隅で、蛇の舌のようなものがのたうった。

煌々と赤く、べろべろとのたうつ、燃え盛る紅蓮の舌が。


《・・・そのアインの刃を、無事、くぐり抜けることができたならば・・・な》

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