046 You must [Keep/Rise] up to win.



「セレネ」

『う、いやその、イスカが強すぎたっていうか、ついカッカしたっていうか』

「修二くんに、初めて、持ってかれちゃった」

『別に見せびらかしたってわけじゃ……はぁ?』


 素っ頓狂な声を上げるセレネに、夏希は半ば叫ぶように続きを口にした。


「初めてなんだよ、『勝ちたい』って思ったのはさぁ……!」


 いつだってずっと、雛森夏希は己の勝ちを疑わずにここまできた。勝利とは望むのではなく、思い描き実現する未来予想だった。

 その夏希が今、求めている。セレネは理解すると同時に驚愕した。


 ――夏希。あなた、知ってしまったのね。


「勝ちたい。修二くんに勝ちたい。あぁ、私、今……勝ちたい」


 それは確かに初めてだった。いつだって勝つと決めて勝ってきた夏希が、今勝利を切望する。

 求めるならば、足りていない。


「だって私今、だ――さいっこうに! 負けそうなんだよ! 私は! 修二くんにさぁ!」


 勝ちたいということは、負けそうなのだ。

 夏希が思い描く世界に、今初めて、勝利のヴィジョンが欠けている――。


「ダメだ! 修二くん、まだまだいーっぱい隠し玉残してる! 私さっき死にかけた! もうスラスターない! 手詰まりかもしれない!」


 知ってしまった。また一つ。当たり前のことを知らないことで、夏希の翼は縛られていたのに。


 崖っぷちを知ってしまった。

 敗北の予兆を感じてしまった。


 それはきっと、また彼女の命を縮めてしまう。

 それでも夏希は挑んでいくに違いない。


「負けそうな瞬間が、こんなに、こんなに」


 夏希の世界が広がるたび、夏希はまた海の奥底で苦しむのに。


「こんなに――楽しいだなんて――思わなかった!!」


 夏希の笑顔はセレネも見たことないほど高揚していて。

 彼女は今、前人未到の高みへと飛び立とうとしている。


 それが何より嬉しい。


 ――ようやく、始められるのね。


 勝つことの決まった戦いではなくて。

 持てる全てを注ぎ込んで、魂さえも燃え上がるような、一世一代の大勝負を。


「だけどぉ! 勝つのはぁ! ……私たちだッ!」


 恐れることは何もない。

 この戦いの果てに夏希が倒れるとしても、それは今ではない。

 夏希がそう望むのならば、セレネは全力で応えなくてはいけない。


 その身を焼きつくしてでも飛び続ける、清らかな私の鳳に。


「そうでしょう、セレネ!」

『当然よ! 私たちは負けないわ――絶対に! 負けるもんですかッ!』


 鬨の声を上げよう。

 この世界に。夏希を閉じ込めるこの塔に。


 それが崩れるほど高らかに。陽の光さえも吹き散らすほどに。

 光も熱も追いつけない、一と零の向こう側へ。


 そして這い上がってきた小さな鷲に、強者の力を教えてやれ。




「イスカ」

『はい』


 ここに至って、会話に然程の意味があるとは思っていなかった。

 それは彼女も、彼女の主も同様で、だからこれは最後の確認だ。


「――負けたくないんだ」

『存じております』

「負けたくないんだ、絶対に」


 譫言のようにそう呟く修二に、もうイスカの知っている弱く愚かな面影は何処にもなかった。

 未だに弱く。高みに遥か手を伸ばし、届かぬとしても……。

 その決然たる心だけは、もう誰にも劣ることはない。


「勝たなきゃいけない。勝ちたい。……勝つんだ」


 執着。

 盲信。

 いや……宣誓だ、これは。


『私も、同じ想いです』


 イスカは、束の間目を閉じた。


 私は嬉しい。

 形ばかりで、逃げ腰だった貴方が。飽き性とごまかして、努力を怠ってきた貴方が。

 今こうして、誰よりも勝ちを望んでいる。

 雛森夏希という勝利の権化が霞むほどに、貴方の情熱は気高く尊い。

 心を折られ、膝をつく事を、誰も咎めはしないし、けれど褒めることもない。

 そこから立ち上がるものだけに、栄光を得る権利がある。


 ――気づいていますか、修二。

 初めてなのです。貴方がはっきりと――『勝ちたい』と言ったのは。


「だから、全力で戦おう」


 果たして是非がありましょうか。


「イスカの全力が必要なんだ。きっとそれでもまだ足りないから――」


 本当は、そのような顔で、従者たる私に懇願する必要などなかった。

 貴方はただ言えば良かった。貴方はただ、戦えと命じてくれればいい。

 私はそれで満たされる。雇用主と労働者。私たちの関係は、危うくても、その一線を越えはしなかった。


「――だから、一緒に行こう」


 けれど貴方が、共に行こうと言うのなら。

 私を欲して、私を頼って、共に勝利を掴もうと……その泥臭い、涙に濡れた手を、私に差し出してくださるのならば。


 その温情に縋ることを、許してくださるのであれば。

 主に罪を隠し続けたこの血塗られた背信者を、矛として盾として、求めてくださるのであれば。


『御意のままに、ご主人様』


 果たして是非が、ありましょうか。


『我が全ては、我が主の御心のままにあります故に』


 伸ばし続けて痺れてしまったそのかいなに、我が全てをかけて、尽きぬ栄光を飾ることに。

 ああ、なんの是非もありはしません。


『身命を賭して、勝利を捧ぐ所存であります』


 勝利の全てを、我らのものにせよと言うのなら。

 我が名にかけて、全うしましょう。




『さぁ、行きましょう』

「絶対に――勝つッ!」




 奇しくも、鬨の声は同じ。

 喊声と共に戦いは再開される。


 セレネがナイフを投げ込み、イスカが腰の裏から小剣を引き抜き、それを受けて夏希も修二も紅蓮へと踏み込んだ。

 ナイフが地に突き立った後、セレネが指を打ち鳴らす。酸素を消し飛ばしたらしく、瞬間的に炎は鎮火した。

 その鼻先へと竜巻が殺到する。


『っとぉ――!』


 燃料ごと炎を吹き散らしえた突風から横へ飛び退く。そこへ追撃のグレネード。

 セレネは飛び上がって爆風から逃げ、突風の主を目で追った。


 イスカだ。それは予想していた。背に槍を背負っている。予想外だ。

 そしてその両手の剣はなんだ――ビルに突き立ちコンクリートを粉微塵に切り刻んで消えたあれは、どうやって放った。


 細く刃の見当たらない剣を逆手に握り、イスカは両腕を大きく後ろへ引き絞って、正面へと突き出した。


 ――うん、順調。ダンタリオンの笛も上手く使えてるね。貯蔵空気とのリンクはどう?

 ――素晴らしいの一言です。軽く、早く、鋭い……近接戦闘も可能。放つ風の刃の威力に不安はありますが、これは補って余りある……。

 ――……なぁ、それ二つ持てないか?

 ――はい?

 ――単なる風じゃなくてナノマシンの振動と波長を合わせた空気の砲弾の『起爆装置』って言っただろ。原理的には、同時に二回振れば相乗効果があるよな?


 どう、と風の塊がセレネを襲う。それは槍であり、砲弾であり、竜巻だった。

 一振りならばただの鎌鼬が飛ぶだけだけれど、両手で振るい二つの風を重ね合わせることで、この杖は真の力を発揮する。


 その風を割る鉄塊が一つ。


「そぉれっ!」


 夏希は飛び上がってイスカの風の槍を正面から破壊し、窪地の中央へと着地する。

 修二も一切臆せず正面から突撃を敢行。


「夏希ィ!」

「修二、くんッ!」


 両手の獲物を叩きつけ、修二は鍔迫り合いへと持ち込んだ。

 機体の膂力はアポローンが上、だがサイズと重さはビーク&タロンが上。

 二機が正面からぶつかり拮抗する頭上を、風の槍と雷の刃が応酬する。


『いつ飛び道具なんて手に入れたの、よッ!』

『つい一週間前、です!』

『ふざけた威力じゃないの!』

『貴方の炎よりはマシでしょう!』


 両手の刃――『ダンタリオンの笛』を互い違いに振りぬくと、小さな、しかし鋭い風の刃が飛び出す。

 イスカはそれでセレネのナイフを片端から撃ちぬいていた。

 セレネの魔法は高速、高威力、時に広範囲というのが持ち味で、それはどれも防御の構えを取るドローンすら撃滅し得る威力を秘めている。迎撃しなければならない。


 イスカはセレネの魔法技術を非常に洗練されていると判断した。

 儀礼ナイフ……アセイミをポインタに用いることで、通常しなければならない多くの手順を省く。それによる高速化。

 それは修二が選んだ『ダブレットクロウズ』と同じ思想の下に編み出された技術だが、セレネは更に威力を求めた。


 ただナイフを投げるのではこちらへ届かぬと判断したセレネは、先程も見せた電磁加速砲EMCの魔法を発動し、ナイフを打ち放った。複雑な文様を持つナイフが紫電を纏い、小さな砲弾となって音速を超える。

 イスカは投擲の段階で射線を見切り、かろうじてそれを回避した。返す刀、両手で撃ち込んだ風の槍を相手も避ける。


 埒が明かないとイスカは感じた。やはり接近戦しかない。


 ダンタリオンの笛は剣ではないから、しっかりと握る必要はない。

 指で挟むようにして、片手に二つの剣を持つ。空いた手に槍を構え、イスカは突貫していく。最後の仕掛けのために。


 その下で、修二と夏希は数度剣を離しつつも、鍔迫り合いを続けていた。


 修二はもう一度だけ、己と向き合った。

 振り下ろす拳はもう弱い自分を打つ暴力ではなくて、自分の強さを認めさせるための鍛造だった。

 泣き言を言う自分はもういない。

 だから修二は最後の鍛造のために、そんな自分を思い返さなければならなかった。


 ――置いていかれた。

 ――苦しい。

 ――どうして。


 ――甘えるな。

 ――みんな、必死にやっているんだ。置いて行かれるのは当たり前だろ、俺。

 ――腑抜けて遊んで腑抜けて生きてるクソガキの俺が、全身全霊で生きてるあいつらに追いつけるはずねぇだろう!


「勝った先にすべてがあるんだ! そうだよな、夏希!」

「そうだよ! そうだ! それだけが世界のルールだ! だから私たちは戦うんだ!」


 ――お前は今まで、こんなに力強く叫べたか?


 弱者は強者に蹂躙される。力こそが正義を作る。全ては勝利の後にある――それを残酷だと思っていた。

 そりゃそうだ。強者の理屈は弱者に厳しいに決まってる。弱者ってのは、強くあろうとしないやつらのことなんだから。


 現状のぬるま湯に満足した奴と、際限なく先を求める奴と、どっちがどれだけのものを掴むかなんて自明だろう。


 誰だって、自分が最強だと叫ぶために戦っている。

 誰だって、自分が弱いだなんて知らされたら、苦しいに決まっている。


 生まれながらの差がなんだ。天性の才能がなんだ。相性の良し悪しがなんだ。経験の量がなんだ。

 そんなものは言い訳だ。恵まれた条件で生まれてきた奴が、必ず世界の頂点に立つのか?


 カーンはどうだ。あいつは変なこだわりばかりを優先するくせに、負けては悔しがっていた。

 生まれは平凡、才能もない、相性は悪い、経験もろくにない、そんなやつだ。それでもカーンは勝利のために努力をして、俺を打ち倒していった。


 姉貴はどうだ。家は平凡、才に恵まれたわけでもなく、狙撃特化なんてそれこそ相性次第で手も足も出ないだろう。初めて一年なんて競技の世界じゃひよっこだ。

 でも――姉貴は強者であろうとした。だからまるで当たり前のように、世界にその名を轟かせた。


 その努力の詳細は、俺には分からないけれど――始めた頃から針穴を通すような狙撃が出来たわけじゃないんだと、それはよく知っている。


 勝ちたいのは皆一緒だ。

 平等じゃないのもみんな一緒だ。


 夏希のような生まれながらの主人公でさえ、努力に努力を重ねている。

 だから、こうして戦う理由はたった一つだ。


「言わなくてもわかるよなぁ!」


 吠えて、その剣を受け流した。


「わかるさ! 私もずっと考えたもの!」


 翻る剣筋にしかと棍を叩きつけ、衝撃で押し返す。



「「――負けっぱなしじゃ、いられないから――!」」



 立ち位置が入れ替わり、イスカとセレネの格闘を背後に、修二はもう一度だけ打ち合いを挑む。

 わずか五合、いや――それすらも保たない。


「イスカ、準備はいいか!」

『問題ありません』


 ここにきてさらに鋭く、早くなっていく夏希の剣に不条理を感じて、不意に胸が熱くなる。

 二合目、相殺に失敗して右手の砲棍が流れる。左で迎撃、三合目は防御に成功。

 四度目の剣は防げない。


「カウント五!」


 修二は地を蹴り、バックブースターを起動した。

 追いすがる夏希に対してストライクバックを構え直し、気休め程度の砲撃を続ける。

 火器管制機構FCSの助けを借りて、足へ肩へと照準を散らすも、その巨剣は淀みなく砲弾を捌き続ける。


 それ以上カウントを叫ぶ必要はない。正確に五秒、イスカは測って動いてくれる。

 後は修二が合わせるだけだ。


(やってやる……!)


 追い付いてきた夏希の剣を打ち払う――いや、フェイント……!

 左の棍がかろうじて防御を間に合わせる。三度目、左の剣は頭部を割るコースを描く、今度こそ必殺の一撃。

 チャンスを無駄にするな。


「――『Beak』!」


 機体の口から、高圧縮の粒子刃ビームブレードが飛び出した。


「やられた……!」


 首を一閃。振り下ろされた巨剣と粒子の奔流がせめぎ合い、やがて鉄の塊を根本で切り捨てた。


 続く掬い上げるような一撃を両手で受けて、衝撃に逆らわず後ろへ飛ぶ。

 残り二秒。


 修二は全速力で後退を始めた。夏希の装備を一つ破壊し、タイミングも完璧だ。接近戦のリターンとしてはこれ以上ない結果。後はチャンスを逃さないように。

 FCSのオートロックでは間に合わない。修二が自力でしなければならない。


 一秒。

 覚悟は、とうに決まっている。


「イスカ、やれ――ッ!」



 バイザーがその目を覆った。



 その鎧は剥がれ落ちた。

 一瞬の吸気を終えて、輝く炎を吐き散らし、素体のみとなったイスカが――電熱放射型オートマトンの本性が、牙を剥く。


 ――交喙の嘴は食い違う。その穂先が捩れて開く。


 槍先からプラズマを放ち、それは風より疾く飛翔する。


 夏希へと。


『せ――あああああッ!!』


 ゼロ――坂を登り切る。

 互いに反転。


 身を屈めて滑るように後方を向くビーク&タロンと、その背を蹴って最大速度を得るイスカ。

 修二はセレネへ砲を向け――イスカは夏希へ突撃し――何か反応がある前に、その暴威を解き放った。


「オーダー、『イーグルアイ』――!」


 ダブレットクロウズが真っ直ぐ刃を伸ばして突進する。セレネはそれをひらりと避け、その先に置かれていた砲弾がセレネの翼を直撃する。

 メタルジェットは鋼板の羽をいとも容易く貫通し、セレネの体をも貫いた。腹部と肩。


『っづ――』


 衝撃でセレネはナイフを取り落とす。


『あぁ――ざっけんなッ!!』


 吠えるセレネの周囲を、いくつものダブレットピジョンズが回転する――。




 ――輝く槍先が折れた巨剣に食い込んだのを見て、イスカは畏れを抱いていた。

 遅れて、衝撃波がアポローンの巨体を揺らす。数メートルもない位置からの音速を超えた刺突に、反応するどころか防いでみせた。


 あぁ、化け物だ。


 剣ごと投げ捨てられる。空中で剣を切断して体勢を立て直し、最後の切り札を解き放つ。

 槍の付け根に、ダンタリオンの笛を取り付ける。


 正真正銘これが最後だ。鎧を失った以上、この身体能力ではあれと戦う事はできない。

 それでも、その体の重みは、イスカにとって心地よく馴染むものだった。


 吸気したナノマシンでイオンを分離。プラズマを生み出す。

 その破壊力は決して仮想世界に留まらないけれど、大丈夫、ここには何もない。上空の聖域に、仮想でないものなどないから。


 空想こそが、今は真実。

 偽りの戦場こそが、今、全てを賭けるべき世界――。


 ブースターを全開にして、最後の接近を試みる。全身を引き絞る。二叉に分かれた槍先が風を切り、笛が高らかに鳴り響く。

 体を捻る。全身のバネを使って、その全身に必殺の意思を込めて。


『――我が主の覇道のために』


 風を切るのに合わせて、笛は位相と波長を重ね合わせる。暴風がプラズマを纏って嵐となる。噴出する風の嵐がイスカの体を強烈に前へ突き出して、そして。

 振りぬく。

 音を遥かに超えた速さで。


『そこを、どいてもらいます――』


 それは光の槍だった。

 ダンタリオンの笛が放つ空気をプラズマ化。

 現実ではついぞ実用化されなかった、対ナノマシン用の架空兵器――プラズマ砲。


 純然たる破壊のための、灼熱と光輝と烈風の三重奏。

 イスカの目でさえ追えない速度で迸るエネルギーの奔流は、確かに、アポローンへと直撃した。




 ――セレネは飛んだ。


『ここで私が倒れたらァ――』


 壊れかけた翼を精一杯に広げて、回転する球体を掻い潜り、修二へと肉薄していく。

 そうだ。あの蝋細工の鳳が、今勝利を求めている。敗北の恐怖を知り、己を脅かすものを知り、それと相対する快感を知り――。

 その傍で、笑っていられずにどうするのか。


『夏希の相棒、名乗れないでしょうが――ッ!』


 砲弾を間一髪で回避する。頬を撫で、髪を千切る鋼鉄に見向きもしない。

 その口にナイフを一つ咥え。

 今にも砕けそうな翼を、必死に羽ばたかせて。

 彼女は修二の眼前へと飛び込んだ。


 接続開始。掌握。アセイミ、正常稼働――。

 ドローンを破壊できるほどの一撃を、電子魔術で織り上げる。


「『Beak』」


 その粒子ブレードは読みきっていた。セレネは体の数センチ下を焼く粒子の流れに見向きもせずに、最後の魔法を構築する。


 それは勝者の意地として。

 傲慢に、最強を叫び続けるための。


「ポイント」


 その魔法を、修二は食い破る。


 セレネの背を、無数の粒子弾が貫いた。


『な……』


 ナイフが口から離れて落ちていく。

 付け根から壊れた翼が、セレネの背から剥離した。


 ダブレットクロウズ『イーグルアイ』、パターンは『範囲内を不規則に回遊、ポインタに対して直線射撃』。


 修二は、落ちてくるセレネへその棍を振りかぶる。


 ずっと隠していたのだ。『ダブレットピジョンズ』は、射撃攻撃も備えているということを。

 それによって夏希にダメージを負わせられる状況はいくつもあった。


 それでも、修二はまずセレネを倒すつもりでいた。


「お前に負けたらさ」


 振りぬく。


「夏希のライバル、名乗れないから――」


 棍はセレネの体を強かに捉えた。

 衝撃と爆裂が、破城槌の如き威力を生む。


「――そこをどけ、セレネッ!」


 壊れた天使が吹き飛んでいく。


 瓦礫に埋もれたそれを見送って、修二は静かに振り返った。

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