第38話 この世界の謎

 周りを石垣で囲んでいるからまるでお城みたいな所だなーと思っていた。でも門をくぐると中は意外と普通だった。

 日本風の建物とか、砂利を敷いた庭とか、木とか石とか……。

 建物が明らかに木材じゃない何かで出来ている点を除けば、これって多分、日本庭園だよね。

 ああ、ようやく僕も安心。


『ここ、日本だと思う』

「そうなんだー。よかったあ」


 不安そうだったルシィもようやく少し笑顔になってくれた。

 うん、僕が不安に感じているとルシィも不安になっちゃうってこと、少し忘れてた。


「でも、どうしたらいんだろうね」

『た、確かに……」


 建物らしきものは見える。

 砂利を敷いた庭が視界いっぱいに広がっていて、木が生えていて、所々石があって、奥の方に建物があって……玄関らしきものはどこでしょう?


 と思ったら、目の前にふわっと何か文字が。


「”入り口はこちらです”だって」


 これは空中に映像が浮かぶ技術ではなかろうか。漫画とかアニメで見たことあるよ。

 やっぱりここって300万年後の日本……?


 しかもルシィにも読みやすく、わかりやすく矢印まで出てるし。


『あっちに行けばいいみたいだね』

「うん」


 なんだかのんびりとした、落ち着く世界だなあ。

 僕がこの世界のことを考えている間、ルシィは矢印の誘導に従って、いつの間にか奥の建物の玄関らしきところにたどり着いていた。


『あ、これって靴を脱がなくちゃいけないかも』

「そうなの?」


 と思ったら、また文字が。


「”そのままでいいですよ”だってさー」


 どこからどこまで親切設計なんだこの案内は。

 僕が戸惑っている間にもルシィは案内されるままに、木の板のような模様の廊下をずんずん歩いていく。


「~♪」


 しかも鼻歌交じりで。

 こういう時に何故か肝が座っちゃうルシィは本当にすごいよ。


「”こちらでお待ち下さい”だって。どんな人がいるのかなあ」

『うん、僕には全然予想が付かないね』


 日本人っぽい人だったらいいなあ。

 ルシィと僕が案内されたのは、すだれのような物が奥にある、大人が10人も入れればいいくらいの狭い場所。

 広さ的には時計塔の最上階に近いかなあ。


 僕がそわそわと様子を伺っている内に、すだれの奥に灯りが灯った。

 よーく見ると人影が見える。おお? ついにお出まし?


「”永久とこしえの聖女”。そしてそれを守る騎士ナイト・ペントさん。ようこそいらっしゃいました」

「こんにちはー」

『ど、どうも……』


 ペコリと頭を下げるルシィにほのぼのしつつも、なんだか違うんじゃないかと引っかかる。

 僕はすだれの奥の様子を伺いながらどうしよう、どうしようと内心あたふた中だったりして。

 だってもし万が一のことがあれば全力で逃げ出さなくっちゃいけないもんね。


「ペントさん、安心してください。あなた達は必ず元の場所へお戻ししますよ」

『あ、はい。すいません。ありがとうございますってあれ? 僕の声が普通に聴こえるんだ?』

「はい、そうですね。あなたの意志に直接接続していますので」

『なにそれ、怖い』

「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、あなたの発したい意志と隠したい意志は、ちゃんと振り分けられて私の耳に入っています」


 それもそれで怖いんだけど。


「色々聞きたいことがあるようですね」

『うん、いっぱいあるけど……ルシィは何かある?』

「あたしはいいよ。ペントの話を聞いているだけで楽しいから」

『じゃあ、お言葉に甘えて……』

「はい、どうぞ」


 僕は覚悟を決めた。

 さあかかってこい、この世界の謎。


『ここは日本なんですか? ひょっとして300万年後だったりして?』

「ここは日本で間違いありませんが、300万年後ではありません」

『あ、そうなんだ。平行世界だったり? そもそもこの世界って何? かつて魔法があったって本当?』

「……複数質問が来ましたので、整理してお話しますね」

『すいません。お願いします……』

「あなたはまずこの世界のことについて知りたがっているようですので、そこからお話します」


 うん。知りたいです。



「ここはあなたの世界から、約35億年後の地球です」



 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 えー……。

 思わず思考が止まっちゃったよ。一発ノックアウトです。

 何それ。35億年後!?


『……信じられないよ、そんなの。35億年も人類の文明が続くとか考えにくい』

「そうですね。あなたのおっしゃることはよく分かります」


 当たり前だよ、嘘を付くならもっとそれらしい嘘にして欲しい。


「そこで、あなたにも信じて頂けるような証拠を2点のみ提示できます。ご覧になりますか」

『……どうぞ』

「はい。まずは1点め。この世界の夜空は見たことがありますか」

『まあ、たまに』

「何かおかしいことに気づきませんでしたか」

『そう? 普通だと思ったけど』

「ではこちらの全天映像をどうぞ」


 ルシィと僕の前に表示されたディスプレイ。


「綺麗だねー」

『うん……』


 何も変わらない、いつもの夜空。

 月が浮かんだ夜……ん? 月が2つ?


「ようやく気が付きましたか?」

『ええっと、なんか変?』

「肉眼では少々わかりづらいので、映像を加工したものがこちらです」


 そして映る映像に、僕は愕然とした。


「おっきい! なにこれ!」

『これって……銀河?』

「はい、そうです」


 理科の勉強とかでも見たことがある、銀河が全面に夜空を覆っていた。


『月のように見えたのは、銀河の中心だった……?』

「目の前にあるのは、あと数億年もすれば私たちの天の川銀河と衝突して合体するアンドロメダ銀河です。実際には既に銀河の端がすでに重なっていますので、正確には衝突中と言えますね」

『……』


 なんかそういうの科学系のニュース記事で見たことあるよ。いずれ衝突するって確かに書いてあった。


「そして2点目の証拠はこちらです」

『え……?』


 そして目の前に針の穴のような小ささの、たくさんのディスプレイが浮かんだ。

 それはもう、部屋中にいっぱい。視界に収まりきらないくらいの数がある。よく見れば何か動画が流れているみたい。


「35億年分の映像アーカイブで見る”地球の歴史”です。1分で5000万年分。2時間ほどにまとめたダイジェスト版もご用意しておりますが、ご覧になりますか。ちなみにノンダイジェストですと1年1秒だとしても視聴に100年以上はかかってしまいます」

『え、遠慮しておきます……信じます……』

「はい、ありがとうございます」


 参ったなあ。

 この世界は35億年後の未来だって……。

 その後、魔法は原子制御技術の応用云々という説明をしていたけど、頭に入ってこなかった。

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