甘い味の支配

 体育館の裏でした。

 冷たい薔薇の香りがします。黄色いバナナのような落ち葉が、艶やかなチョコレートの土を、美味しそうな感じにふわっと包み込んでいました。

「何言ってんだてめぇ」と、神威くんの声がしました。

 大黒くんの妹が、神威くんを睨みつけていました。「わたしの恋人になって」と、彼女は言いました。

《あなたのせいで、シラヌイくんはわたしのことを見てくれない。小さい頃からずうっと好きなのに、シラヌイくんはわたしのことを見てくれない。カムイくんのせいだ》

「知るか」

「わたしとセックスして」

「頭おかしいんじゃねえか」

「変態のくせに」とても、静かな声で彼女は言いました。

「てめえ。今、なんつった?」

「わたし知ってるんだからね。あんたが猫の首絞めて殺して、その死骸でオナってたのを見たんだからね。みんなに言いふらしてやる。この変態! 変態! 変態!」

 バレンタインデーだった昨日、不知火くんのために一所懸命作ったチョコレートが、通学路の途中にあるタバコ屋のゴミ箱に、捨てられていました。

 もし、これがいじめっ子の神威くんが、不知火くんから奪いとって捨てていたのであれば、どんなに救われたことか。

 捨てたのは、不知火くん本人でした。

 迷惑そうな顔をして、穢れた汚物を摘むかのようにして、それをゴミ箱に捨てているのを、彼女は見てしまったのでした。

 それもこれも、みんな、神威くんがこの世に存在しているせいなのです。

 そして、自分のことを見てくれない不知火くんが、憎かったのです。小さい頃から、ちょっかい出して気をひいていたのに全然振り向いてくれない不知火くんが憎かったのです。

 だから、やっぱり気をひくために、不知火くんが愛している神威くんを、強引に奪いとってやろうと思って、そんなことを言ってしまったのです。

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