愚者

 蒼白い顔をした神威くんが黒い棺の中で骸骨とセックスをしていました。


「そして、わたくしは十四歳でした。わけあって、母が死にました。棺の中の母は継接ぎだらけの人形になっていました。わたくしは棺のなかの包帯にくるまれた母の骸を抱きしめて、精子を撒き散らしました。線香に混ざった精液の匂いに、吐き気を催し、恐怖と腹立たしさを覚え、父の所持していたキシロカインを拝借して、昆虫採集用の注射器を使い、自分の陰部に注入し、何も感じなくなってからカッターとコンパスを使って、それを切り取りました。睾丸は金色ではなく、血塗られた白でした。その後、意識を喪ったわたくしは、救急車で父の病院へ運ばれ、父がわたくしの睾丸を縫合しました。チャッチャッチャ。あっさり終わって、彼はなんにも言いませんでした。

 父の転勤に伴って、また引っ越すことになりました。新天地でピカピカの中学一年生。そこは実に保守的なクソ田舎で、馬鹿しかいませんでした。わたくしは覚えていないのですが、幼いころに、一度ここへ来たことがあるそうです。しかし、こんなクソ田舎では、何もやることがなかったので、半年ぶりに自慰をしてみました。出るには出るのですが、透明の液体、あるいは何もでないこともありました。皮膚の摩擦が痛く感じられ、積極的にオナニーしたいと思わなくなりました。とは言っても、性欲自体は完璧になくなってはおらず、やっぱり時々Hなことは考えてしまい、それが気に入らない。玉をとっても変わらないじゃねえか。と、今日もこうして、カモフラージュのキェルケゴールと一緒にホロコースト写真集や、ドS乙女の虐殺黙示録などというクソ漫画を買ってしまうのです。

 ところで、本屋から出て歩いたところでクソガキが二人、わたくしに因縁をつけてきました。おそらく、彼らはわたくしを弱者と見なしていたのでしょう。実際、現状において自分は弱者です。この世界において弱い者とは、たった一人の個人のことをいいます。本来的に言えば、世界中の人間は一人残らず弱いのです。しかしながら一人の凡人は集団化すると、自分が強くなったように錯覚します。この二人も多分にもれず、集団化しているため、そういった錯覚をしているのでしょう。わたくしは身を守るためにどのような行動をとればよいのか考えました。異端的人間は、自己を持たない空っぽの個性たちに影響を与えることがままあります。ですから、わたくしは無個性の人間に狂気を植え付けて、支配してしまえば良いのです。そうすれば、わたくしという異端は、集団の長になれるのです。カリスマという異端児は、凡庸な弱者の集団を従えることによって強くなる。逆説的に言えば、カリスマというのは、弱者がいなければ何もできないということです。ところで、この方法は主導権を握る方法としては手っ取り早いのですが、大きな瑕疵があって、祭り上げられたカリスマは弱者の集団の意志に少しでも疑いをかけられると、排除、暗殺、処刑されるリスクを伴います。要するにカリスマは弱者を支配しているように見えて、弱者に支配されているとも言えるのです。

 ですが、仕方ありません。異端児が生きるためには、破滅の道を選ぶしかありません。

 では、カリスマになるにはどうすればよいのか。簡単です。彼らが畏怖する存在を演じればよいのです。人が畏怖を示すもの。それは狂気です。たとえば、彼らのような単細胞は、死への恐怖をものともしないことが、強さの証と信じているようなので、死を恐れない姿を提示すればよい。と言って、しかしよく考えてみれば、人間は今日明日生き永らえたところで、明後日には必ず死にます。いずれ死ぬのが分かっているのに、今日という日をよくまあのうのうと生きていられるものだと感心します。

 人生という名のベルトコンベアの先に大きな穴があいていることを分かっているのだから、その長いベルトコンベアに乗って恐怖に耐えるよりは、今すぐダッシュして飛び降りたほうがよっぽど安楽です。

 思考停止の馬鹿者どもにはそれが勇気に見えるらしいのです。だったら、その錯覚的勇姿を馬鹿者どもに見せてやればいいだけの話です。わたくしは迫り来る電車に向かって立ち往生し、両手を広げます。そして、死をあざ笑うことにします。今日明日の死を恐れている弱者にとって、それは輝かしく見えるのでしょうね。なんて愚かなんだ。と、わたくしは呆れも果ても尽き果てました。さっさと終わってしまえ」

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