異端者


 目をつぶりました。見たくありませんでした。耳を両手で押さました。なにも聞きたくありませんでした。

 それでも、仄暗い青色のなかでバラバラになっていく身体の輪郭がぼんやり映ってしまうのです。獣に襲われる弱い動物の戦慄き声が聞こえてしまうのです。


《ざまあみろ》


 と、大黒くんの無感情を装った声が、遠い彼方の呼び声のように反響し、ぼくの頭の海馬のなかで、冷たい時計の針が狂った時を刻みはじめました。

 その癪に触る響きのために頭がおかしくなりそうになって、我慢しきれず、目を開けてしまい、不良の神威くんと名前のない少年二人が輪切りになって散らばって不知火くんが血塗れのタイルにへたり込んでオシッコを漏らしてそれを見下ろしている黒いセーラー服の美少女の表情はやはり影で隠されていて見えず小さく開いた口の中から透明なジグザクの歯が覗いて


「罪の重さを思い知るがいい」


 と、彼女は言いました。

 ぼくの頭は青ざめた怒りでいっぱいになりました。神に守られた安全地帯から地獄でのたうち回る悪魔を見下すような物の言い方に、憎悪したのです。

《こんな世界、クソまみれにしてやる》

 すると、亜門さんが、ぼくを抱き寄せて言いました。

《罰を受けたいんじゃないのか?》

《でも、ぼくらは、こんな目に遭わなきゃならないほどの罪を犯してない》

《じゃあ、そんな目に遭うくらいの罪を犯せばいいだけの話さ。ほら、林檎でもバナナでも好きな果物を食えよ》

 彼女の唇は、甘く滴る蜜の味がしました。

 接吻の向こう側で、大黒くんが冷ややかな目をしていました。

 ぼくは大黒くんの存在をこの世から抹消したくて仕方がありませんでした。《ほら、もっと奥の方だ》と、亜門さんが意地悪なことを言いました。《嫌だ。見たくない》《見ろよ。見たいんだろ?》

 ぼくは、顔を手で覆いながら指の隙間から意識の中の勃起したペニスを、亜門さんの陰部に突き刺しました。奥へ。奥へ。もっと奥底へ。亜門さんの意識の深層をグチャグチャに掻き回して。《もっとだ。もっと、もっと奥底へ》

 そして、亜門さんの悲しい声が聞こえました。

《壊れてしまったわたしの父は、トイレに籠って、こう言った》


 光よ、あれ。

 

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