異能

 自分の手がなぜ、ここにあるのだろう。そう思ったことがあります。

 その日、ぼくは風邪をひいていました。

 視線の先に手があって、その向こう側にある丸い蛍光灯の光が、世界を黄色く歪めていました。

 熱にうかされて、ぼんやりしながら、とても不思議に思いました。

 どうしてぼくの手が握ったり開いたりして動くのでしょうか。

 いったい、その手を動かしているのはだれなのか。

 これは、ぼくの意志が動かしているのでしょうか。


《違う》


 ぼくが手を動かそうとする以前に、すでに手はそこにあって、

 いつのまにか手が動いていて、

 そのあとに、


《自分の意志で動かしたと信じ込んだ》


 頬から血がポタポタと滴って、床に真っ赤な王冠を創り続けていました。

「解説してやるよ」

 転校生は言いました。

「わたしはたぶん、おまえよりおまえのことに詳しいから」

「へ、変なことをいうな!」

「ほんとは嬉しいくせに」

 亜門さんは、にへ。と、笑いました。あからさまに作ったような微笑みでした。その人形みたいな表情が美しく感じられ、ぞくっとしました。

《もっと素直に喜べよ》と、彼女は言いました。《と、おまえは言った》《と、彼女は言いました》《と、ぼくは言いました》

 耳のなかでキーンという音と共に、女になりきれない男の声が反響しました。

「な。なんだ、これ」

《なんでもいいさ。試しに、声に出さずにしゃべってみろよ》

《う、うんこがしたい!》

《ぎゃはは》

《恥ずかしい》

《とっととしに行けよ》

《女の子にうんこしたなんてこと知られたくない》

《ぎゃははは》

《笑うな!》「これ、なんなの?」

「おまえの思念だよ」

「ごめん、なにいってんのか分からない」

「いわせんな。言葉に出すと安っぽいんだよ」《おまえはクソったれなエスパーなのさ。思念を相手に送ることもできるし、読み取ることもできる。ただ、コントロールしきれてねーから、感情が高ぶると筒抜けになってんだよ》

「うそでしょ? ぼくの思ってることが?」

「だからいったろ? わたしは、おまえのことには詳しいんだ」

 わっと体が熱くなるのを感じました。

 恥辱にまみれた炎が身を焦がし《うわああ。いやっ! いやだああああ!》

「いいから、うんこしてこいって」

 恥ずかしさのあまり、教室を飛び出しました。全身のわななきを感じながら、廊下を一気に駆け抜け、

《こんな世界、終わってしまえ!》


 男子便所

落書き

ふるちん万 ボ〜ケ!

   奥ゆかしきペニス

ちんこ うんこ まんこ


《うあ。うんちでちゃうのおお!》ビシャビシャと音を立てながら、黄ばんだ白鳥が蓄えた水のなかに、腐臭を放つ罪悪の破片が落っこちて、跳ねた水がお尻に当たって、《おい、うるせえぞ》《な。聞こえたの?》《もろ聞こえだよ。ビチグソ野郎》《今までの、ぼくの、その、みんなに聞こえてたのかな?》《フツーの人間には声として届いてないはずだから安心しろよ》《普通の人間? どういうこと?》《おまえのテレパスを受け取れるのは、お前が召喚したイドだけなんだよ》《井戸?》《わたしはずっと、おまえに呼ばれるのを待っていた》《わかんないよ。わかんないって》《わたしの頭を覗いてみろ。集中して。おまんこファックするように》《やめて! そういう下品なの嫌いだ》《ぎゃはは。エロいことばかり考えるてるくせに今更なに言ってやがる》《分かるように説明してよ。お願いだから》《そんなにいうなら、こっちからおまえの脳みそに突っ込んでやるよ》

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