絶頂のジェノサイダー

十字架おんぶ

第一部 ぼくの世界

殺戮少女

 三木村さんの上履きを学ランのお腹の下に隠して妊婦のような姿になりながら、下駄箱から一番近い職員用のトイレへダッシュして、大便個室へ入って閂をかけ、ズボンを脱いでブリーフ一丁になって、『おまんこペロンチョ』『ルシウス日村ひむら、参上!』『←日村はホモです』などといった猥褻な落書きだらけの扉に背中を押し付けて、ダンゴムシのように座り込みました。

 使い込まれて黒くなった上履きのかかとの部分をおチンポとキンタマの間にセットして、ブルブルと振動させるように擦り付け、健康的な太さの綺麗な脚から発せられる振動によって股から真っ二つにされるのを想像しながら、ぼくは果ててしまいました。

 股間を見るとブリーフに上履きの足裏の跡がくっきりついています。

《もう、こんなの嫌だ》

 真っ黒なタールのような罪悪感に苛まれ、息が詰まりそうです。

 さっきまでの自分は一体なんだったのか。

《生きている価値がない》

 湿ったパンツを脱ぎ捨てながら、そう思うのです。

 この忌まわしい、汚れてしまったブリーフをそのまま置いていくわけにいかないので、ズボンのポッケに丸めて突っ込みました。

 しかし、果たして、下駄箱からパクったこの上履きをいったいどうしたらいいのでしょうか?

 なんで、こんなことをしていたんでしょうか?

 ぼくが、職員用の男子トイレに忍び込んだのには理由があります。

 一つには、下駄箱から最も近いトイレだったこと。

 二つには、ここなら他のトイレに比べて使用率が低いということ。

 三つには、職員室トイレなら万が一トイレに入るところを見られても腹を抱えて飛び込んでいるのを見れば、『どうしようもない状況だった』と言い訳ができるからであって、それに、おそらく、教師は腹痛で下痢便している生徒にはあまり干渉しないでしょう。未成熟で潔癖な中学生にとってトイレでくっさいウンコをすることは、とても恥ずかしいことであることを、教育心理学を習得した先生たちは知っているはずですから。

 ところが、生徒用のトイレでの大便となるとこうはいかないでしょう。

 例えば不良の神威かむいくんみたいなやつに見つかったら(奴がこんな時間に来ていないのは分かってますが、奴の仲間が男子陸上部で、朝練に出てきているはずですから)、バケツいっぱいの水を上からぶちまけられるなどのイジメにあう可能性があり、盗んだ三木村さんの上履きの件がバレたら、どうなるかわかったもんではありません。

 だから、あえて職員室トイレでオナニーをしたのです。

 が、今になって思えば、よくもこんな大それたことができたものだと、己の無謀さを悔いています。

 こうしている間にも、容赦なく時間は流れていきます。未来にあったはずの現在という時間は次々と過去になって流されていき、刻一刻と取り返しのつかない終末へ向かっていきます。

 三木村さんが、朝練を終えて、下駄箱を覗いた時に、上履きがなくなっていたなら、きっと大騒ぎになるはずです。誰かが盗んだ。外部からの侵入者。変態。警察の介入。マスコミ。ワイドショーのネタ。犯人は実は同級生だったことが明るみに。ごめんなさい。ぼくはオナニーするために上履きを盗みました。変態! 変態! 変態!

 は。っと、息を吐いて、便所を飛び出し、一気に下駄箱へ駆け出しました。途中、保健室の栗山先生とすれ違ってしまい、ギリッと歯を食い縛ったときに血の味がして、「あらどうしたの?」と声をかけられたぼくは「忘れた忘れた! 」と、小賢しい芝居を打って、下駄箱へと突っ切り、汗が止まらない! こめかみから顎にかけて、汗が滴り、校庭で朝練に励むみんなの声が脳みその中で反響して気持ち悪さを覚えながら、開放された学校の玄関を視界の奥で虚ろに感じながら、まだ誰も登校している気配がないことを知覚して、間に合った! っと、声に出しました。

 ぼくは、急いで腹の下から三木村さんの上履きを抜き出して、下駄箱にぶち込みました。


 あははっ。


 急に体が軽くなったのを感じました。

 ぼくは、まだ、優等生でいられる。

 陽光が差し込み、静かなるリノリウムの廊下を艶々と照らします。

『何食わぬ顔』という表情を作って、その場から離れました。

 机に突っ伏して、気持ちよく眠れる自分の幸福を想像しながら、すべての罪悪を忘れました。

 軽やかな気分でした。

 階段をキュッキュと昇って、教室へと向かい、見慣れた2年4組の戸をスライドさせました。

 机や椅子が一つもありませんでした。

 教室の中の木の床は、ワックスをかけたみたいにピカピカでした。

 窓から射し込む朝の光が、スポットライトみたいに教室の真ん中を照らし出していました。

 頭だけになっている三木村さんがありました。

 首から下は、ダルマ落としのコマみたいに、足の先まで、輪切りになって転がっている三木村さん。

 見知らぬセーラー服姿の影が、教室の真ん中に突っ立って、三木村さんの頭を見下ろしていました。

 表情の見えないシルエットは顔を上げて、言いました。


「あなたを殺しにきました」


 ぼくのおチンポは、どうしようもなく勃起していました。

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