029-2

 チーフの説明が終わる前に洞窟の奥から妙な物体が洞窟の奥からわらわらと湧いて出てきた。


 ――なんじゃありゃ? りおなが普段やってるゲームなんかのモンスターとは似ても似つかんぞ。

 なにあれ、テレビの特撮で見たような怪獣の人形け? どーゆったらいいんじゃろ、つくりが雑じゃな、

 そんで色はけばい原色じゃし。

 りおなは『か弱い女子』じゃからわからんけど、お金払ってまで買いたいもんやないわ、どう見てもハズレのやつじゃろ。


 りおなは驚くよりも先に呆れてしまった。


 大きさはそれぞれちがうが明らかにりおなより大きい。

 身長はおおよそ160~190cmくらいだろうか、りおなが声を上げるより先に明確な敵意を持ってりおな達に襲いかかってきた。


 ノービスタウン在住の冒険者達は臆することなくクリーチャー達に向かい棍棒や鎚矛メイスを振り上げ造形物たちを叩き潰す。


 完全に原形を留めなくなると珍妙なフォルムの造形物はすうっと透けるように消えて無くなった。

 あとにはぼんやり光る小石のような物が落ちている。


 ――これ、さっきアリの巣の入り口で見たのと同じのじゃな。


 ティング族のディガーは手慣れた手つきでで光る小石を腰に提げた麻袋に入れていく。


「今、彼が拾ったのはおもちゃに対するわくわく感が入った石『輝きの欠片かけら』です。

 これをRudibliumの冒険者たちは価値があるものとして採取し、燃料として使ったり、道具の原料にしたり換金したりしています。

 もっともここは階層が浅いですから質が悪く価値も低いですね。

 ああ、クリーチャー達の説明が途中でしたね。Rudibliumの地上に住んでいる住人たちと同じく人間世界のおもちゃたちが元になっていますが失望感や喪失感、落胆などがその身体に染みついているために……」


 チーフの説明が終わる前にまたもやクリーチャー達が現れた。


 ――当たり前じゃけど、こっちの都合なんか関係なしじゃな。

 まあ向こうからしたらただうろうろしてる時自分らのテリトリーにりおなたちがいて、じゃまもの扱いしとるんじゃろけど。


 今度来たのもファンタジーっぽさは全然じゃな。

 あれじゃろ? 色が赤と銀色で男の子のテレビの主役のやつ。だいぶ薄汚れとるのう。

 ってか主役の『光の国の戦士たち』がりおな襲ってどーするんじゃ、怪獣と戦わんかい。

 

 その動きは元がソフビ人形なので足やひざが曲がらないためか、上体を左右に揺らしながら前進していた。

 緩慢に、だが確実にりおな達に襲いかかって来る。


 そして、近づいてきたときの攻撃方法もだいぶシュールだった。

 身長190cm程のソフビ人形たちは少ない稼働部分、両腕を駄々っ子が母親にやるようなしぐさのように、肩ごとグルグル交互に回しながら攻撃してきた。


 またある者は両腕を前方に突き出し、少ない稼働部分、上半身を回転させながらりおな達一行を攻撃してくる。


 ――もーーなんていうかさーー、何時間か前に戻って『ダンジョンに行きたい』って言ってたりおなを自分で止めたくなってきたわ。


 まずもって、動き自体が単純じゃからな。極端な話、目つむったままでもかわせるわ。

 ……んでなに? 持ち主の子が書いたんじゃろな、背中に油性マジックででっかく『たひろ』って書かれとるわ。


 それを見たりおなは思わず頭を抱えそうになった)。


 ――試しにじゃけど、アミューズメントパークの定番でやってるみたいに、動きが止まるかもしれん、書かれてる名前呼んでみよか。

「あっ! 『たひろだ!』」


 すると『たひろ』と書かれたソフビ人形は怒りの矛先をりおなに向け突進してきた。


 りおながソーイングレイピアで応戦するよりも先に、白い雑種犬の『きこりのジゼポ』は斧、カラカルのアラントは手甲に鉄のかぎ爪を付けた武器、いわゆる鉄の爪でソフビ人形達に攻撃を加えていく。

 その動きは予め敵や仲間同士でお互いが次に何をするか解っているかのような連携ぶりだった。

  

 ティング族のディガーはある程度ソフビ人形達の攻撃を受けていたが、ブリキ製の身体は思いのほか丈夫で、人形達相手に使い慣れたツルハシで戦っている。

 他のスタフ族ふたりも積極的に戦闘に加わる。


 ――りおなの出番なんて全然ないにゃ、みんなすごい連携取れとる。


 ソフビ人形達をすべて倒し終わるとチーフは残りの説明を続ける。


「このRudibliumの地上に住んでいる住人たちに憎悪に近い感情を抱いて見かけると襲ってきます。

 逆に地上の住人たちも『もしかしたら自分たちもああなっていたかもしれない』、『自分たちにできることはせめてその動きを止めてやる事だ』と思い、彼らを倒しています。

 まあ、憐憫の情だけではなくこれで生計を立てているという側面も確かにあるのですが」


 チーフはさらに話を続ける。

「地上の住人たちにはおもちゃに対する愛情や遊んだ楽しさが身体の中に満ちているのですが、こういったダンジョンを徘徊しているおもちゃたちには失望や落胆ぶりがかなり染みついています。

 ですから我々はこの世界のクリーチャーたちを『落胆する』、あるいは『停滞』という意味合いで『スタグネイト』と呼んでいます」


「んー、なるほどー」

 りおなはその説明がすとんと腑に落ちた。


 ――姿かたちとか攻撃方法だけやなしに、その発生する理由までげんなりさせられるにゃあ。


「これがおもちゃの世界の光と影かー。

 『大消失』だけでも大変じゃのに、ここのモンスター、『落胆』スタグネイト? こいつらが地上に出てきたらそれこそおもちゃの国、メチャクチャになるんじゃなかと?」


「飽和状態になればその可能性も否定できませんが、『類は友を呼ぶ』ということわざがあるようにスタグネイトたちは好き好んで表に出たりはしません。

 クラスタ、徒党を組んでやり場の無い鬱屈をどこに向かって吐きだすでもなくこの薄暗い地下で徘徊しています。

 言うなればおもちゃの引きこもりのようなものですかね」


「そのスタグネイト? ソーイングレイピアで攻撃したらどうなると?」


「彼らの身体に染みついているのは『悪意』ではなく失意や落胆などですからね。レイピアの『心の光』では威力が強すぎて『輝きの欠片』などの素材ごと消し去ってしまいます。

 ですからりおなさんはなるべく戦闘には参加せず見学だけにしておいて下さい」


「んー、わかったー」


 実際にやってみて解ったことだがりおなに向かってきたソフビ人形のスタグネイトを試しにレイピアで軽く突き刺したらダンジョン内部に強い光が迸り、跡形もなく消えてしまった。


 ――モンスター相手ったって弱いものイジメみたいじゃし、それにここは冒険者たちのなわばりじゃからな。ここはチーフの言うとおりにしよう。


 その後も古びた炭坑内の探索は続いたが『大消失』の影響でしばらく冒険者たちの討伐が途絶えていたためか、スタグネイトたちは間断なくりおな達に襲いかかってきた。

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