027-2
――まあ、気が向いたときネコとウサギなんかノートの隅の方に落書きする、とかいうのんは授業中ではしょっちゅうやってたけどにゃあ。
ちゃんとしたぬいぐるみを一から創るデザインってなるとちょっと、いやだいぶ責任重大じゃ。
チーフの説明じゃと街中で売り子さんとかさせる場合は、どっちかいうと頭身が低くて丸いデザイン。
んで荒れ地を開墾させたり、洞窟なんかを探索、採掘させるようなぬいぐるみは本物の動物や獣に近い、リアリティの高いデザイン。
それぞれ適性が高くなるとかいう話じゃったし。
――今ある絵本の登場人物だけでは、どうやっても再興に必要なぬいぐるみの数が足らんさけ、りおながデザインしたぬいぐるみも創る必要あるらしいし。
りおな一人でなんびゃくにん分もデザインして、その上で、ぬいぐるみを創るというのはどー考えてもオーバーワークじゃ。
ある程度ランダムにデザインをしてくれるツールをチーフと課長で組み上げているらしいけど。
チーフとか課長が毎日パソコンとにらめっこしとるんはそのためみたいじゃ。
りおなは普段そんなにマメな方ではないけんにゃ。
そんでもゲームでキャラメイキング出来るときは、ちょっとでも強いというかポイント高いの出るまで粘るからにゃ。世間でいう『効率厨』とかいうタイプ。
もっとも、絵本の登場人物に比べるとりおなが自分でデザインしたぬいぐるみは能力が転生したのよりステータスが低くなるらしいし。
んだから創ってすぐはりおなやチーフたち、ほかのぬいぐるみに育ててもらう必要があるらしいけど。
そこはりおな一人では決められんさけ地元(?)のひとと一緒にがんばる感じじゃな。
「……うーーん」
りおなは動物図鑑をにらみながら、落書き帳に取り留めもなく色んなキャラクターを描きつけてみる。
――最初はそんなでもなかったけど、けっこう楽しいにゃ。
これはあれじゃな、りおなの新たな能力が発揮されて、別のステージに進出できるやもしれん。
これは、というデザインを描いたページには
――
そんでもプロの絵本作家やないさけなあ、そんなに『これだ!』っちゅうデザインが連続では出ないっちゃ。漫画みたいに六つ子ちゃんとかはできんし。
それでも集中力が切れたらヴァイスフィギュアとの戦闘シミュレーション(という名の携帯ゲーム遊び)に興じた。
合い間合い間にチョコレートやポテトチップをつまみ、それも飽きたらまた絵本に目を通す。
と、やっている事は休日の過ごし方とほとんど変わらない、というか、やや廃人ぎみだ。
間もなく課長が湯気を立てたどんぶりを乗せたお盆を持って部屋に入ってきた。
「りおなちゃん、お待たせ。ご注文のラーメン。
それと栄養のバランスを考えてレンコンとおからのサラダに、デザートはフルーツヨーグルト。コショウと七味もあるからお好みでねー」
「おー、ありがとー」
りおなはちゃぶ台に並んだ夕食と課長に合掌した後、小さいボウルに入ったサラダから手を付ける。
レンコンのしゃきしゃきした歯ざわり、おからの甘さを辛子マヨネーズがまとめ上げていて、初めて食べるが病みつきになりそうだ。
続けてラーメンのスープをレンゲですくい一口飲み、麺を箸でひとすくいし、すすりこんだ。ほっとする味に思わず口角が上がってしまう。
「んじゃ、食べ終わったらお盆ごと廊下に出しといて。私は部屋で仕事してるから」
「はーい、ありがとー」
あっという間にデザートまで完食すると、りおなはもう一度合掌し、お盆を廊下に出して畳に寝転がる。顔がラーメンの熱で少し火照るが、それが心地よい。
行儀が悪いというのは解っているが満腹の時にゴロゴロするのはこの上ない至福の時だ。
少し長めのあくびをしてから、りおなは横になったまま積まれていた絵本を広げ読みだした。
「……また、やってもうた……」
りおなは、カーテン越しに差し込む日差しで目を覚ます。
自分の身体にかけられた羽毛布団を持ち上げると、エムクマとはりこグマが入り込んですやすやと寝息を立てていた。
その平和な寝顔を見て、りおなはさらに軽い自己嫌悪に陥る。
――状況は……見たままじゃな。
夕ご飯食べて横になって、そのまま寝オチしてどんぶりを下げに来た課長が布団かけてくれたんじゃな。
そのあと、エムクマとはりこグマが布団に入り込んで来て、夢も見んくらい熟睡しました。
以上、説明終わり。
「ぐおーーーー」りおなは独り頭を抱える。
――確かに昨日は絵本朗読会やったり、そのあとはーー、カンパニー(おやつ)システムのぬいぐるみ創りして?
サイズ違いでデザインが全く同じミーアキャットたちを15にん、どんなオーダーメイドじゃ。
そのあと魔法のイメージ訓練。
内容は知らんけど、海上自衛隊とかとおんなしくらいのハードスケジュールじゃ。
りおなが自分で思うんはともかく、誰かからぐうたらじゃとか言われたら真っ先にばっくれちゃる。
んでも、この寝オチするんはあんましいい気がせんにゃあ、ちょっと考えよう。
エムクマとはりこグマを起こさないよう、慎重に布団から抜け出し、窓辺に置いてあるクローバーの鉢植えに水を与える。
チーフの話通り、この世界では植物の育成は異様に速いようだ。
植えた時には少し植木鉢が大きすぎるかと思っていたが、今は植木鉢から溢れんばかりに緑を増やしている。
――ひょっとしたらと思ったけんど、やっぱし四つ葉はないにゃあ。
『四つ葉は人が踏むところに生えやすい』っちゅう話は本当みたいじゃな。
すぐにでも荒れ地にに移植して増やそう。
軽くふらつく頭でチーフの部屋を訪ねると「どうぞ」と声があった。
りおなが部屋に入ると、少し慌ててた様子でスーツを羽織るチーフの姿があった。パソコンに向かって作業しているのは相変わらずだ。
「おはよう」
「おはようございます、りおなさん。昨夜はよく休めましたか?」
「うん、それはもう」
寝オチしたのはりおなにとっては不覚だったが周囲にとってはさほどでもない。
チーフとしては朝の十時か、昼くらいまで起きてこないと思っていたので少し驚いていたくらいだった。
「今日の予定は何じゃ?」
先にチーフに告げられるとめげるから、という消極的な理由でりおなはチーフに尋ねる。
「はい、昨日に引き続き、ぬいぐるみ創りですね。そのあと午後ですが」
「うん、午後は何?」
「カンパニーシステムシステムのもう一つの肝、『ウェアラブル・ジョブシステム』の装備品創りですね。
もっとも、ぬいぐるみたちのように一から全部作るのではないです。
もともとRudibliumの住人たちが使っている道具や服に『インプロイヤーイシュー』を装備して『心の光』を注ぎ込みます。
そうすれば住人たちが希望する職業に就いたりそれに見合った技能を修得できるようになります。
開拓、開墾の第一歩ですね」
「あー、そりゃ助かるわ」
「りおなさんが持っているソーイングレイピアで創れるのはぬいぐるみの他、洋服や帽子、手袋など、布や革製品などに限られます。
ですが、ティング族やウディ族が作った道具や武器などに『心の光』を注ぎ込めます。
それで服などと同様に彼らの技能を伸ばせる特殊な装備品、『ウェアラブル・イクイップ』にできます」
「なるほど」
「ちなみに、昨晩も少し話しましたが、これがRudibliumの住人たちが就ける職業と装備品の一覧ですね」
言いながらチーフはタブレット型の電子機器をりおなに渡す。
――えーーと、職業だけで100以上。装備品は……頭、福、ズボン、スカート、それにくつ。
んで手袋とかも合わして……ソーイングレイピアで創れる物だけで軽く500は超えとるのう。コンプリートしたらボーナスアイテムとか出るんか?
りおなは思わず眉をひそめた。
「んで、装備品着けてからどうやったらレベルアップすんの? 街の外とかダンジョンとか行ってモンスターとか倒すと経験値あがると?」
「いえ、基本的には『ウェアラブル・イクイップ』を着けているだけでもゆっくりと習熟していきます。本人がその職業に就いて仕事をこなせば成長はさらに速くなりますね」
「なるほど」
チーフの説明はこうだ、この世界にも人間界と同じく多数の職業が存在するが『ウェアラブル・ジョブシステム』は特定一つではなく、複数の『本人が望むもの』になれるシステムらしい。
例えば、『世界一の花屋』になりたい、というのも時間をかければ可能だし、逆になんでもこなせる『便利屋』のようになりたい、というのも同様にできるという事だった。
だが、一点に特化するのはどうしても時間や経験を積む必要がある。
逆に『何でもできる』というのは、どうしても『あれこれとできるが、器用貧乏になってしまう』という風に、そこは現実の世界と変わらないらしい。
「んー、わかった」
「まずは朝食ですね、宿屋の食堂で食べられますか?」
「うん、まだちょっと眠いから、シャワー浴びてから食べるー」言いながらりおなはチーフの部屋を後にした。
宿屋の食堂で軽めの朝食を済ませて、りおなはトランスフォンと、自分で吟味した絵本を何冊か持ってチーフの部屋に出向いた。
「んじゃ、ちゃっちゃっと創りたいけどなんにんくらい創ればいいっと?」
「昨日と同じくらい、20にん程ですが、大丈夫ですか?」
「うーん、まあやってみてだめだったら早めに言うわ」
りおなは絵本の内一冊を広げ、トランスフォンで絵本の登場人物を何点か撮影していく。
ぬいぐるみを創る上で必要になる型紙、ステンシルを作る上で重要な工程だ。
何枚か撮っていくと、りおなは二冊目の絵本を広げ同様に登場人物を撮影していった。
全部撮影を終えたりおなは額を手で拭う。
「いやー、一仕事終えたわーー。あー、お疲れー」
片手を上げて何事も無かったように部屋を出ようとしたが、チーフに動きを読まれやんわりと部屋に戻された。
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