朔の晩に会いましょう
渋い表情をしたルークの背を押すように、モハメドは柔らかな声をかけた。
「水脈潰しは五年前にもやっておることです」
でしょう?と、モハメドがハリルを伺う。ハリルは苦笑を浮かべた。
「南カムールの皆さんには、随分と潰してもらいましたっけ」
「我らの水源もハリル殿の父君に潰されましたかなあ。いやはや、懐かしい」
モハメドとハリルが笑い合うと、ルークは静かに口元をひきつらせた。言葉の端々に棘を感じて仕方がない。気のせいで済ますには少しばかり露骨過ぎた。
「……それで、水脈潰しとはどういうもので、どの程度の効果がある?」
「
「もし、翌年同じ場所にオアシスが出来てしまったらどうなる?」
「その頃には毒が薄まっておるゆえ、問題はありませぬ。そもそも水脈潰しは死者が出るほど強い毒ではございません。腹を下すが精々。たまに強い嘔吐を繰り返す者がおりましょうが、一日、二日寝ておれば治る程度のもの。水が使えぬということで、干乾びる者がおりましょうが」
モハメドは囲っていた男達の一人に声をかけると、ルークの前に大袋を置いてみせた。両手で抱えるくらいの大きな麻の袋で、袋の口は黒く汚れた縄で縛られている。そこに赤い顔料で塗られた木札が下がっていた。
「我らが持っている水脈潰しはこれが全て。北はどうか」
「うちも同じです」
ハリルは背後にいた男に同じような麻袋を持ってこさせると、モハメドの前に置いた。同じくらいの大きさの、見るからに重そうな袋が置かれた。それを見たモハメドは少し眉根を寄せ、言った。
「二分するとなると、すこしばかり足りないかもしれませんな。いや、不足分はこちらでなんとか致しましょう。して、どちらがどちらに行くかですが……殿下とハリル殿には、イマームの水脈をお願いできるでしょうか」
「いや、サハル街道を任せて欲しい」
モハメドが、ぎょっとした。
「王国軍本隊とかち合う可能性がございます。イマームの方が安全であるように思いますが」
「正面切って戦う訳じゃないのだろう。こちらにはボラクや馬がいる。こいつらの足ならば本隊と遭遇するよりも早く多くの毒を撒けるだろう。モハメドはイマームの水源を頼む」
モハメドは悩むように両腕を組むと、暫く目をつむった。やがて男達の集団から何人かを呼び集めると、ルークへ言った。
「この者達と、あと数人、足の速いものを殿下の下へつけましょう。ハリル殿、殿下のことをお任せいたします」
ハリルは頷くと、地図を睨んだ。
「合流する場所を決めましょう」
地図をざっと改めると、徐にハリルは地図の一点を指し示した。
「ここ。サハル街道とイマームの中間地点、ナルセの砂丘はどうでしょう。ここなら岩山もありますし、身を隠しながら互いに待ち合わせる事が出来ます」
モハメドが、同意するように頷いた。
「では次の
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