真実の欠片
かつての広場を眺めながら、アズライトは物語の結末を告げた。
「最後の竜が死に、
やがて、望みを奪われた
「……皆殺しよりも、
一度旨味を知ると辛い生活に戻りたくないから自分が得たものを必死で守ろうとする奴が現れる。そういう奴を上手く焚きつけることが出来れば、都合の良い駒になるのをルークはよく知っていた。駒になれば、あとは都合よく使えって集団を散り散りにさせてしまえばいい。あとは適当に反目する噂を焚き付ければ、散り散りになった集団は力を合わせようとしなくなる。殺す必要なんてないのだ。
(当時の人達も知っていただろうに。どうして)
ルークは、あっという表情を浮かべた。
(逆か。人類側が
解決能力の高い求心力ある存在がいたら、あるいは大儀名分があれば分裂した集団は団結する。以前よりも強固に。
「
もしそうなら、彼らは最初から最後まで行動で示していたのではないだろうか。人への想いと、自分達の想いを。言葉も意思も通じ合えなくても、行動で理解してくれると信じて。
(なのに、人は最後まで理解しなかったんだな)
祖先たちに対する怒りと落胆で心がいっぱいになっていた。そしてアズライトに対してもルークは憤っていた。命令されていたとはいえ、自らが竜と、
「竜や
アズライトは何も言わなかった。押し黙ったまま風の音を聞くように目を閉じている。それが、無言の肯定であるように思えていた。
「……
「リーファの手にゆだねられ、施設に移されるまでの間、私達と共にいました」
「一緒に?」
「そう、一緒に。かつてのこの広場で、よく遊びました」
無表情で何を考えているのかさっぱりわからないアズライトが、小さな子供と一緒に散歩をしている様子が想像できず、ルークは困惑顔で尋ねた。
「人形の、お前がか?」
「
ふっと、アズライトが微かに口元を緩ませた。つられて、ルークも頬が緩んだ。
「随分な変わりものだったんだな、リーファもL411も」
かつての人類に腹立ちを覚える反面、リーファとL411を好ましく思った。L411も人形のくせに人よりも人らしい心を持っている。
(この二人がそばに居たら、きっと
だから
「案外、その
「ありえません。助けた
暖まりかけた気持ちが、すっと、冷めてゆくのを感じた。
「じゃあウィゼルが言う
アズライトが双眸を閉じた。言い辛い事を言おうとしているような苦悩が表情に浮かんでいた。
「……
「人と、
「旧人類は通常の成長では間に合わないほど数を減らしていましたので」
「戦争で?」
「いいえ、アリーと同じような症状で。多くの旧人類が命を落としたのです」
冷や水でも浴びせかけられた時のような冷たい感覚が全身に広がり、頭を痺れさせた。自分を取り巻く世界の薄暗い闇。その正体を、アズライトは知っている。
(訊ねるべきだ)
カッシート連合王国の、末裔として。
アル・カマル皇国の、元皇子として。
この世界に生きる、一人の人間として。
人を死に至らしめる病であり、運良く病から生還した者達へ超常の力を授けるものの正体を。
「死の病とは、何だ?」
「環境に適応するため身体の構造を造り替える際に引き起こされた急性的な拒絶反応。貴方の言う死の病は、病気ではありません」
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