猫舌

 安い賃貸物件には訳があるもので、俺の部屋には同居人がいる。

 目には見えない。ただどうしてかなんとなく、「あ。あの辺にいるな」とわかるばかりである。

 特に害を為すわけでもないのだが、どういう次第か週に一度ほど、インスタントのカップスープを飲みたがる。 

 マグカップに作ってテーブルに置いておくと、目を離した隙に少しずつ分量が減っていく。

 最初は面白がってなくなるまで眺めていたのだけれど、どうもこいつは猫舌らしく、飲み終えるまでに大層な時間がかかる。

 最近は「ゆっくり飲めばいいからな」と声をかけ、俺はそのまま寝てしまう。

 眠りを妨げる何の音もしないけれど。

 朝になると、マグカップは綺麗に洗って伏せてある。

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