孕む

 出社すると、同僚が「腹が痛む」と青い顔をしていた。

 常々腹回りを気にしていた男であったから、「また食べ過ぎか飲み過ぎだろう」と揶揄やゆを返したが、それに対する反応すらも鈍い。どうも相当に苦しいようである。

 あまり体調が芳しくないのであれば無理をせずに病院へ行けと肩を叩いたのだが、頷く顔がもういけない。青を通り越して土気色になっている。

 救急車を呼ぼうと携帯を探り、そしてまた彼に視線を戻してぎょっとすくんだ。

 このわずかな間に、腹が異常に膨れ上がっている。まるで妊婦のようだった。

 何かを訴えるように彼はわずかに身動みじろぎをし、そして、それがよくなかったのだろう。

 腫れ上がった腹部は途端、限界を越えた風船のように爆ぜた。


 床に溢れ出た血と臓物の中に、六ヶ月になる胎児が混ざり込んでいたとは、後に知った話である。 

 結局、どちらの命も助からなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る