暇を乞う

 羊との付き合いは、もう3年になる。

 大学に入って一人暮らしを始めた私は、不眠症気味になった。色々と試してみたが効果はなく、ある時初心に立ち返って羊を数えた。

 するとこれが覿面てきめんに効いた。

 以来私は瞼の裏の場に、架空の羊を遊ばせるようになった。数えるよりも牧歌的な光景を想像した方がより効果的だったのだ。

 やがて羊は現実味を増し、毛並みの手触りや蹄の形、鳴き声や角の巻き具合に至るまで、細かく思い描けるようになった。


 その羊が夢に現れたのは、大晦日の事である。

 羊は私に寄って来て、


「日頃の恩を忘れるではありません。ですが今年は年番もありまして、しばしいとまを頂戴したく思います」


 そう言って、深く頭を下げた。

 思えばこの羊は毎日休みなしである。私は仕方ないなと許諾して、でもそれから不安になって、


「でも、そのうちに帰ってきてくれるのよね?」


 羊は力強く頷いて、一声鳴いた。



 そこで、目が覚めた。

 私には非常に珍しい事だったが、どうやらやら年越し番組を眺めているうちに、うとうとと微睡んでしまっていたものらしい。

 ぼんやりと夢の内容を反芻はんすうしていて気がついた。

 年賀なんてメールで済ませていたのですっかり忘れていたけれど。

 間近に迫った来年は、そういえばひつじ年である。 

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