外の大勢

 入院中の祖父を見舞った。

 大した症状ではなかったはずなのだが、どうしてか長患いになって、未だ病床を離れられずにいる。最近では幻覚も見るようで、大部屋から個室に移してもらった。

 私が顔を出したのも、ちょうど悪い夢を見ていた頃合であったらしい。


「窓の外で大勢が喋っている。うるさくて敵わない。お前、なんとかしてくれないか」


 すがるように私の袖を掴んで言う。

 だがそのような事があるはずもない。ここは7階で、眺望のよい大きな窓こそあれ、それは嵌め殺しなのだ。いずれ幻聴であろうと思った。


「今親戚が来ているから、それでちょっとうるさいかもね。後で顔を見せるはずだから、それまでゆっくり眠っていて」


 言い聞かせると祖父はやがて頷き、


「そうか。親戚か。なら大丈夫だな」


 そうしてまた眠ってしまった。

 起こすのもよくなかろうと私はそっと病室を離れ、直後、容態が急変した。祖父はそのまま意識を回復せず、帰らぬ人となった。



 翌日。

 祖父の身の回りの品を引き取りに、再び病院へ赴いた。

 長く居た分、細々(こまごま)と持ち込んだ物も多い。片付けに勤しんでいると、不意にこつこつと窓が鳴る。

 何気なく顔を上げて、病室の大きな窓を見た。

 窓ガラスに手と額とを押し付けて。

 外から祖父と見知らぬ大勢とが、じっとこちらを覗き込んでいた。

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