雨樋

 こちらに越してきたばかりの頃の事である。

 周辺の地理を把握しようと、休日にはあちこちを散策するようにしていた。

 その日も2時間ほど歩き回って、そこでうら寂れた神社に行きあった。

 熱された都会の路上から見れば境内の土と石畳、そして社叢しゃそうの木陰はなんとも涼しげで、そこで少し休憩をした。


 近場の自販機で買ったペットボトルをあおっていると、


 かり、かり。かりり。


 どこからか、何かをひっかくような音が聞こえた。車の騒音も不思議と絶えた空間だから、ごく小さな物音でも耳に届いたのだろう。

 見回しても境内に自分以外の人影はない。

 首を傾げていると、またしても音が鳴る。

 耳を澄まして出処を探ると、それは人気のない社務所の屋根から降りている、雨樋あまどいの中からしているのだった。

 地面へと這うその樋の出口はコンクリを固めた蓋がされ、更には赤錆た針金がきつく巻かれて封じられている。


 そこまで見て取って、理由もなく肌が粟立った。

 その場を離れるべく足音を殺し、そろそろと一歩を踏み出したその時。


 がりがりがりがりがりがりがりがり。


 何をどう察知したものか、音はそれまでとは比べ物にならない強さと早さで繰り返され、信じがたいような大きさで鳴り響いた。

 後も見ずに走って逃げて、以後付近には近寄っていない。

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