つきまとわれる

 またあの男だ。

 残念ながら見慣れてしまった背広が視界に入って、あたしは思わず舌打ちをした。

 多分通学途中の駅で目をつけられたのだ。先週からずっと、先週からずっと、登下校するあたしの後に、あいつはつきまとってくる。

 相手にしなければきっと興味も失せるだろうと見えないフリでやり過ごしてきたけれど、いい加減限界だった。頼る人を頼った方がいいのかもしれない。


 だがそう決心した翌日から、あいつは見当たらなくなった。

 最初はこの幸運が信じられなかったけれど、それから数日してもあの背広が視界に入る事はなくて、やっと解放されたのだと確信できた。

 電車待ちの駅のホームで、あたしは安堵から大きく伸びをした。

 と、そのあたしの目の前に、ぬっとあいつが顔を出した。

 完全に油断していたから、思わず声を上げて仰け反ってしまった。


「やっぱり、見えてるんじゃないか」


 首が真横にまでひしゃげて頚骨が飛び出した、多分死んだ時そのままの姿の背広男は。

 言って、にたりと笑った。

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