くぼむ

 祖父の三回忌で帰省した。

 実家は電車も通わぬ草深い山の中である。

 仕事の都合で遅くなった俺へは残念ながら迎えがなく、最寄りの駅でレンタカーを手配して夜道を走らねばならなかった。

 少し前まで降っていた小糠雨こぬかあめの所為で、道は悪い。

 注意が散漫になると危ないので、ラジオは消していた。

 久方ぶりの郷里の闇は深くて静かだ。その静寂しじまを車の走行音でかき分けながら行く。


 すると唐突に前方で、どすんと物の落ちるような音がした。

 あまりに大きな音だったので、思わずブレーキを踏んだ。ライトをつけたまま降車して辺りを窺う。しかし何も見当たらない。

 幻聴だったろうか。それにしては随分確かに聞こえたが。

 思いながら車に戻ろうとして、それに気づいた。


 やわらかく泥状になった土の田舎道が、深くくぼんでいた。

 それは両手両足を広げて大の字になった、人の形をしているのだった。

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