棚に棲む
新年になると、婆ちゃんは箪笥にお供えをしていた。
おせちから満遍なく取り分けて小さな御膳を作り、箪笥の一番天辺にある、使っていない袋棚にそれを納めるのだ。
ボケたのでもおかしな信心でもないから誰も強くは制止せず、婆ちゃんは毎年、どこか楽しげにその行事を続けていた。
その婆ちゃんが死んで、年が明けてからの事である。
俺はおかしな夢を見た。
あの箪笥の前に立っている夢である。
箪笥の他は真っ暗闇で何も見えない。何もない。
仕方がないのでぼんやりそれを眺めていると、やがて袋棚がかたかたと揺れ始めた。やがて棚を中から開けて、顔を出したのは真っ白いねずみだった。
ねずみはすがるように俺の顔を見つめ、それからおもむろに立ち上がると、拝むような格好で前肢を合わせる。
最初は訳が分からなかったが、そのうちにピンと来た。
「腹が減っているのか」
問うとねずみはこくこく頷き、また前肢で俺を拝むと、棚の中に戻っていった。
明くる朝。
目を覚ますと台所へ行き、婆ちゃんに
起き出してきた母親は「何してるの?」と怪訝な顔をしたが、「多分動物愛護」とだけ答えておいた。
棚に納めたそれは、翌日には空になっていた。
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