喉の奥

「喉の奥から胸にかけて、異物感があるんです」


 その日の午後、診察にやってきた男性はそう訴えた。

 お陰で時折声がかすれ、物がうまく飲み込めないのだという。

 問診しながら、季節の変わり目でもあるし、おそらくは風邪による喉のれだろうと検討をつけた。


「それじゃあちょっと診てみましょう。口を大きく開けてください」


 指示通りにした彼の咽頭部をペンライトで照らし出す。すると人体の暗闇で、ちかりと光を反射するものがある。

 思わぬ出来事に眉を寄せた。

 その正体を見極めようと注視し、そしてすぐに自分が見つめ合っているのだと理解した。


 喉の奥に在ったのは、じろりとこちらをめつける、一対の小さな双眸そうぼうだった。

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