恨みを買う

 台風一過の午後、不要になった傘をぶらつかせながら道を歩いていたら、うかうかと自分の靴の紐を踏んだ。

 むっとしたが誰の所為にもできない。

 結び直そうと道端に寄って身を屈めると、そこにあった水たまりに人の顔が映っている。

 勿論自分の顔ではない。

 まるで小窓から覗くような風情で、小さな水面一杯に若い男の顔があるのだ。


 男にはこちらが見えているようだった。まるで私を小馬鹿にするような、嘲笑うかのような表情を浮かべてにやにやしている。

 先の苛立ちの八つ当たりもあって、反射的に傘の先で彼の顔を突いた。

 水たまりは奇妙に激しく波立ち、やがてそれが治まると、男も一緒に消えていた。



 その夜、携帯電話に着信があった。

 非通知の番号から留守番電話に低く一言、「覚えていろよ」と吹き込まれていた。

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