鳴く

 最近、ベランダでおかしな鳥が鳴く。

 寝ている妻と息子に良くないから追い払おうと思うのだが、それすらも億劫おっくうでしないままでいる。


「いつまで、いつまで」


 鳥の声はどうしてか、そう鳴いているように聞こえた。


 ふと、昔読んだ妖怪物語のひとつを思い出す。

 以津真天いつまでというモノの話だ。

 鳥のような姿をしたこの妖怪は、埋葬されないままに放置された死体があると、どこからともなくやって来て、「いつまで放っておくのか」と鳴くのだという。


 どうにも馬鹿げた話だ。

 妻も息子も眠っているだけなのだ。具合が悪くて寝付いているだけなのだ。大体、あれくらいの事で人が死ぬわけがない。

 だからそんなものが我が家に現れるはずがないのだ。


 幻想を振り払おうと、ベランダ窓のカーテンを開けた。

 するとそこに居た二羽の鳥が、俺を見るなり声を揃えて、


「いつまで」


 と鳴いた。

 一羽は妻の顔を、もう一羽は息子の顔をしていた。

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