禁煙

 子供の頃、ドライアイスが大好きだった。

 おまけのはずのドライアイスは、私にとっての本体だった。

 水を張ったボウルにすぐに投入して、湧き上がる白い煙を楽しんだ。私ほどではなかったけれど、妹もそれを好んでいた。


 そうやって煙ばかりを見つめていた所為だろうか。

 ある時からドライアイスの白煙の中に、顔が見えるようになってきた。私が見るのは親戚の亡くなった叔父さんで、妹がたのは去年天寿を全うした犬だった。

 人によって見えるものが違うのだろうか。

 気になって母を呼んだ。


「ほら見て、この中に顔が見えるよ」


 母ははいはいと気のない風情でやって来て煙を覗き、そしてさっと顔色を変えた。

 以来、我が家でドライアイスは厳禁となった。

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