鏡の中

 夏休みに、短期のバイトをした。

 従業員は制服のあるところで、当然更衣室もある。

 手狭だが片側に貴重品を収めておく鍵付きロッカー、反対側に鏡があって、その鏡で服装をチェックしてから仕事場に出る。そういう事になっていた。


 ある時その鏡を覗いたら、後ろのロッカーに少しだけ空いているものがあるのに気がついた。

 空っぽならいいけど中身が入っていたるなら無用心だ。

 確かめておこうと振り向いたら、どのロッカーの扉もどれもきちんと閉まっている。

 見間違いかともう一度鏡に目をやると、やはり鏡の中ではひとつだけ、口のような隙間を空けていた。どうしてかその幅は、さっき見た時よりも広くなっているような気がした。


 急に怖くなって、更衣室を出た。

 翌日出勤すると、鏡はもう撤去されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る