傘を持て

 出がけに空を見上げるたら、どんよりと曇っていた。

 予報は夜まで降らないと言っていたが、これはどうだろう。ちょっとの買い物で戻るつもりだけれど、傘を持つべきだろうか。でも降らなかったなら邪魔になる。

 まあ少しくらいなら濡れてもいいか。このまま行ってしまおう。

 思い定めて歩き出しかけたその時、


「雨になるぞ。傘を持て」


 はっきりと言う声がした。

 驚いて振り向くと、壁を這う小さな蜥蜴とかげと目があった。そいつは逃げもせず、じっとこちらを見つめている。


「わかった、持ってくよ」


 そう返事をすると、満足したようにひとつまばたき、蜥蜴はするする屋根の上へと去っていった。



 蜥蜴の言った通り、帰る頃にはひどい雨になった。傘があっても散々な有り様で、もしなければ濡れ鼠では済まなかったろう。

 どうやらただものではないようなので、お礼をしておこうと思うのだけれど、流石に蜥蜴の好物は分からない。どうしたものかと悩んでいる。

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